第4章 第9話
文字数 1,808文字
「どうだ現況は?」
昼食は喉を通らなかったと言う山本くんが首を振りながら、
「候補となっている辺りは全部見て回ったようですが… 残念ながら…」
「それって四人は今バラバラなのか?」
「そうみたいです」
これでは見つけるまで帰らないコースだ、方向転換させねば。
「なら、一度集合させて、少し上に登らせるんだ」
「へ? どうして?」」
「雪は止んだのだろう、なら遠くからでも湯気が見えるんじゃないか?」
山本くんは疲れ切った顔を少し輝かせ、
「…… 成る程、そうですね、成る程です! 『全員A4地点に集結 その後20メートル程登り、残り30分、湯気を探せ』これでいいかな?」
城島が悔しげな表情で、
「あと30分か。クソ、ドローンが有れば…」
「今それを言うな。大丈夫だ。アイツらならちゃんと見つけるさ」
「ですかね… ですよね!」
「見つけろやー、畜生!」
「おいっ いい加減寝ている連中を起こせっ!」
温泉から三ツ矢が戻ってくるなり、吠え始める。
「村松、佐藤、大崎。お前らは帰り仕度始めろ。2時にはここ出るぞっ」
三人は顔を見合わせ周りを見、俺の顔を見る。俺は両肩を軽く上げ、軽く頷く。三人はノートパソコンを閉じ、重い腰を上げ部屋を出て行く。
「またこれから雪が降るんだろう? お前達も帰り支度始めてサッサと東京に帰るぞ。明日は朝一でうちとお前らでミーティングするからな。絶対遅刻は許さないからなっ」
彼方此方で舌打ちの音が聞こえる。揺り動かされ目を覚ました二人に酔い覚ましに温泉に行けと伝える。最後の一人、田所は全く起きる気配を見せない。
直属の上司の親類が故、三ツ矢はそれ以上は何も言わない。そして今回の企画が如何に会社的に無駄な物かを嫌味ったらしくブツブツ言っている。幸い泉さんは食堂で昼食を摂っているので聞かれることはなかったが、それは明らかに公私混同した俺と泉さん、そして社長を糾弾している内容である。
そんな三ツ矢を無視して企画部の支援部隊は各々がラストスパートに入っている。天気図を注意深く見て今後数時間の予報を現場に伝える者。一昨日からの記録を画像付きでWeb用に下書きしている者。庄司と直接連絡を取り、数分ごとに状況を俺たちに伝える者。
今やこの大広間は午睡に浸る一名を除き、完全に一つになっている。各々が役割を果たし、残りの時間まで全力を尽くしている。
三ツ矢はそんな企画部の連中に苛立ちを覚えたのだろう、突如大声で
「ハイっ もう終わりだっ 諦めて撤収だ」
全員が三ツ矢をキッと睨みつける。すると三ツ矢はニヤケ顔で
「あと5分だろ。もう無理ムリ。お前らが何したって、アイツらじゃムリだって。さあ、片付け始めろ!」
全員が勢いよく立ち上がろうとした時、俺は三ツ矢の前に出て、彼の耳元でこう囁く
「またお前は同じ事繰り返すのか? 橋上さんの時のように!」
「は…? 何だって? 何ですか?」
「お前がかつて三葉物産の営業部でやった事を、ここでもまたやるのかって言ってんだよ!」
三ツ矢は愕然とした顔で俺をみる。
「お前は昔、橋上さんの後方支援を約束して橋下さんを海外出張させ、何とか仕事を取ってきた彼女を裏切ったよな?」
「そ… それは…」
「部長に話を通しておくと言っときながらそれをせず、彼女が独断で契約してきた事にした。それを社内で吹聴し彼女を孤立させた」
「何… 言ってるんだ…」
「部長は激怒しその契約は白紙。帰国した橋上さんは居場所がなくなり、上司や仲間から疎まれ、自ら退職した。お前は後方支援どころか、かけた梯子を外したんだ。それを、また、ここでやるのか? と言ってるんだ!」
「……」
「疲れ果てた彼らが帰ってきてもここには誰もいない。明日に会議を開き、社長以下企画部がこれだけの経費を無駄にし会社の経営に損害を与えた。誰がどう責任取るのか。そして鉾先はそう、俺または社長に向けるんだよな?」
企画部の皆が三ツ矢を取り囲む。三ツ矢は額から汗を流し始める
「先月の句会の責任と今回の責任を追及し、俺、そして社長の懲戒処分を提案する。そんな筋書きか?」
怒りの輪が縮まる。無言の怒りが中心に収束していく
「会社のHPにその経緯をアップする準備も済んでいるそうだな。随分と準備の良い事で」
「私は… そんな事…」
「社内からと社外から。経営陣を追い落とすやり方、よく知ってんじゃねえか、ええ。ただな。お前は一つ見通しを誤ったんだよ」
「… なに?」
昼食は喉を通らなかったと言う山本くんが首を振りながら、
「候補となっている辺りは全部見て回ったようですが… 残念ながら…」
「それって四人は今バラバラなのか?」
「そうみたいです」
これでは見つけるまで帰らないコースだ、方向転換させねば。
「なら、一度集合させて、少し上に登らせるんだ」
「へ? どうして?」」
「雪は止んだのだろう、なら遠くからでも湯気が見えるんじゃないか?」
山本くんは疲れ切った顔を少し輝かせ、
「…… 成る程、そうですね、成る程です! 『全員A4地点に集結 その後20メートル程登り、残り30分、湯気を探せ』これでいいかな?」
城島が悔しげな表情で、
「あと30分か。クソ、ドローンが有れば…」
「今それを言うな。大丈夫だ。アイツらならちゃんと見つけるさ」
「ですかね… ですよね!」
「見つけろやー、畜生!」
「おいっ いい加減寝ている連中を起こせっ!」
温泉から三ツ矢が戻ってくるなり、吠え始める。
「村松、佐藤、大崎。お前らは帰り仕度始めろ。2時にはここ出るぞっ」
三人は顔を見合わせ周りを見、俺の顔を見る。俺は両肩を軽く上げ、軽く頷く。三人はノートパソコンを閉じ、重い腰を上げ部屋を出て行く。
「またこれから雪が降るんだろう? お前達も帰り支度始めてサッサと東京に帰るぞ。明日は朝一でうちとお前らでミーティングするからな。絶対遅刻は許さないからなっ」
彼方此方で舌打ちの音が聞こえる。揺り動かされ目を覚ました二人に酔い覚ましに温泉に行けと伝える。最後の一人、田所は全く起きる気配を見せない。
直属の上司の親類が故、三ツ矢はそれ以上は何も言わない。そして今回の企画が如何に会社的に無駄な物かを嫌味ったらしくブツブツ言っている。幸い泉さんは食堂で昼食を摂っているので聞かれることはなかったが、それは明らかに公私混同した俺と泉さん、そして社長を糾弾している内容である。
そんな三ツ矢を無視して企画部の支援部隊は各々がラストスパートに入っている。天気図を注意深く見て今後数時間の予報を現場に伝える者。一昨日からの記録を画像付きでWeb用に下書きしている者。庄司と直接連絡を取り、数分ごとに状況を俺たちに伝える者。
今やこの大広間は午睡に浸る一名を除き、完全に一つになっている。各々が役割を果たし、残りの時間まで全力を尽くしている。
三ツ矢はそんな企画部の連中に苛立ちを覚えたのだろう、突如大声で
「ハイっ もう終わりだっ 諦めて撤収だ」
全員が三ツ矢をキッと睨みつける。すると三ツ矢はニヤケ顔で
「あと5分だろ。もう無理ムリ。お前らが何したって、アイツらじゃムリだって。さあ、片付け始めろ!」
全員が勢いよく立ち上がろうとした時、俺は三ツ矢の前に出て、彼の耳元でこう囁く
「またお前は同じ事繰り返すのか? 橋上さんの時のように!」
「は…? 何だって? 何ですか?」
「お前がかつて三葉物産の営業部でやった事を、ここでもまたやるのかって言ってんだよ!」
三ツ矢は愕然とした顔で俺をみる。
「お前は昔、橋上さんの後方支援を約束して橋下さんを海外出張させ、何とか仕事を取ってきた彼女を裏切ったよな?」
「そ… それは…」
「部長に話を通しておくと言っときながらそれをせず、彼女が独断で契約してきた事にした。それを社内で吹聴し彼女を孤立させた」
「何… 言ってるんだ…」
「部長は激怒しその契約は白紙。帰国した橋上さんは居場所がなくなり、上司や仲間から疎まれ、自ら退職した。お前は後方支援どころか、かけた梯子を外したんだ。それを、また、ここでやるのか? と言ってるんだ!」
「……」
「疲れ果てた彼らが帰ってきてもここには誰もいない。明日に会議を開き、社長以下企画部がこれだけの経費を無駄にし会社の経営に損害を与えた。誰がどう責任取るのか。そして鉾先はそう、俺または社長に向けるんだよな?」
企画部の皆が三ツ矢を取り囲む。三ツ矢は額から汗を流し始める
「先月の句会の責任と今回の責任を追及し、俺、そして社長の懲戒処分を提案する。そんな筋書きか?」
怒りの輪が縮まる。無言の怒りが中心に収束していく
「会社のHPにその経緯をアップする準備も済んでいるそうだな。随分と準備の良い事で」
「私は… そんな事…」
「社内からと社外から。経営陣を追い落とすやり方、よく知ってんじゃねえか、ええ。ただな。お前は一つ見通しを誤ったんだよ」
「… なに?」