第3章 第8話
文字数 1,517文字
「いーなー。ウチもそんな旅館泊まりたいなー」
エプロン姿で皿を拭いている葵に光子が
「ま、お前が孕んだら連れてってやるよ、ギャハ」
「ウザ。翔くんはホントに日帰りなの?」
その横で皿を洗っている翔が、…… おい、逆だろ。葵が洗ってお前が拭くだろう、フツー
「うん。すぐ正月には母さんこっちに戻ってくるそうだから」
「うわ… チョー緊張なんですけど… ウチのこと気に入ってくれるかな…」
まるで同級生を茶化すように光子が
「ウヒャヒャ〜 正月から修羅場かよ、ここ」
負けじと葵は
「お婆様、さっきからマジウザいっ 何さ、パパと二人でお泊まりだからってサカっちゃって。マジ、キモっ」
「ハア? 悔しかったらテメーも翔とパコパコやりゃいーじゃん。この意気地なしが」
「あの、50過ぎでマジキモいんすけど」
「あああ?」
第三者視点から鑑みまして。中学生レベルの仲の良いマブダチ間の口喧嘩にしか見えないのだが……
「おまえらホントいい加減にしろ。あの、光子、期待させて悪かったけど、さすがに社員が半分近くいる宿で… それは… ちょっと、な」
途中から顔が赤くなり始めた俺。娘の前で俺は何を言っちゃってんだろう…… キモ。
「お、おお、まあ、そりゃそーだ。あ、あったり前だろ。な、なあ…」
恥ずかしさ隠しにジョッキのビールを一気に飲み干し、
「それと、葵。この期末の成績が一番大事だぞ。副教科も手を抜かず、しっかりやれ。わかったな」
ウザキモとか言い返されるかと思いきや、真顔で
「言われなくてもわかってる。正念場なのわかってる」
と自分に言い聞かせている。ほう、ようやくスイッチが入ったのかな?
「葵ちゃん、僕夜には戻るから徹夜で勉強しようね」
「キャ〜 ここで、ね!」
あれ、入ったスイッチがショートした?
「そ、それはちょっと… 二人っきりじゃん… 葵ちゃんの家で…」
「嫌。ここじゃなきゃダメ。大丈夫、そーゆーの期待しないからっ うふ」
あざとい。どうみても色気で誘っている風にしか見えない。こんなふしだらな娘に育てた覚えはない、俺は溜め込んだウザさを吐き出す。
「おい葵。なんだ最後の『うふ』は。お袋に言っておくから、ウチで勉強する事。いいな」
「ウザウザウザーーー。マジでウザー! 忍ちゃん、焼うどん! お腹空いたっ」
「ハイよっ 若奥さんっ 翔が行ってる間、電マ貸してやろーか? きゃは」
「何それ、キモ」
思い切り白豚の頭を叩いてやった。
「と言う訳で。明日、7時に迎え来るから。用意しとけよ」
そう言えば、時間に厳しいのは寧ろコイツの方な気がする。待ち合わせ時刻に遅れた試しはないし、店もキッチリ定刻に暖簾を下ろしているし。
「ありがとうございます。車あると助かるよねーお婆ちゃん」
期末試験はすぐなのに。本当にお前は凄いやつだよ。葵には勿体ないよ。益々この人徳溢れる青年の母親に会うのが楽しみになってくる。
「まーな。アンタ、疲れたらいつでも代わってやるからよっ」
「ああ、それは頼む」
忍が疑心暗鬼な視線ビームを光子に発射しながら、
「ちょっと姐さん。マジ日曜の夕方には帰ってきてくださいよ。一人じゃキツイんすから、この季節はっ」
忘年会シーズン真っ最中だ。そう言えばこの間の偽食中毒による予約キャンセル事案は、特に口コミに上がることもなく、その後は順調に予約満席状態が続いている。洒落でなく、忍一人ではとても店は回るまい。
「わかってるって。そん代わり、クリスマスは行ってこい、やってこい!ってか」
「もー、ホント頼んますよー」
俺は初めて忍に申し訳ない、と頭を下げ、
「ゴメンな忍ちゃん。お土産楽しみにしててよ」
「山梨のドンペリ、頼みますよ〜」
ねえわ。山梨にそれだけは。
エプロン姿で皿を拭いている葵に光子が
「ま、お前が孕んだら連れてってやるよ、ギャハ」
「ウザ。翔くんはホントに日帰りなの?」
その横で皿を洗っている翔が、…… おい、逆だろ。葵が洗ってお前が拭くだろう、フツー
「うん。すぐ正月には母さんこっちに戻ってくるそうだから」
「うわ… チョー緊張なんですけど… ウチのこと気に入ってくれるかな…」
まるで同級生を茶化すように光子が
「ウヒャヒャ〜 正月から修羅場かよ、ここ」
負けじと葵は
「お婆様、さっきからマジウザいっ 何さ、パパと二人でお泊まりだからってサカっちゃって。マジ、キモっ」
「ハア? 悔しかったらテメーも翔とパコパコやりゃいーじゃん。この意気地なしが」
「あの、50過ぎでマジキモいんすけど」
「あああ?」
第三者視点から鑑みまして。中学生レベルの仲の良いマブダチ間の口喧嘩にしか見えないのだが……
「おまえらホントいい加減にしろ。あの、光子、期待させて悪かったけど、さすがに社員が半分近くいる宿で… それは… ちょっと、な」
途中から顔が赤くなり始めた俺。娘の前で俺は何を言っちゃってんだろう…… キモ。
「お、おお、まあ、そりゃそーだ。あ、あったり前だろ。な、なあ…」
恥ずかしさ隠しにジョッキのビールを一気に飲み干し、
「それと、葵。この期末の成績が一番大事だぞ。副教科も手を抜かず、しっかりやれ。わかったな」
ウザキモとか言い返されるかと思いきや、真顔で
「言われなくてもわかってる。正念場なのわかってる」
と自分に言い聞かせている。ほう、ようやくスイッチが入ったのかな?
「葵ちゃん、僕夜には戻るから徹夜で勉強しようね」
「キャ〜 ここで、ね!」
あれ、入ったスイッチがショートした?
「そ、それはちょっと… 二人っきりじゃん… 葵ちゃんの家で…」
「嫌。ここじゃなきゃダメ。大丈夫、そーゆーの期待しないからっ うふ」
あざとい。どうみても色気で誘っている風にしか見えない。こんなふしだらな娘に育てた覚えはない、俺は溜め込んだウザさを吐き出す。
「おい葵。なんだ最後の『うふ』は。お袋に言っておくから、ウチで勉強する事。いいな」
「ウザウザウザーーー。マジでウザー! 忍ちゃん、焼うどん! お腹空いたっ」
「ハイよっ 若奥さんっ 翔が行ってる間、電マ貸してやろーか? きゃは」
「何それ、キモ」
思い切り白豚の頭を叩いてやった。
「と言う訳で。明日、7時に迎え来るから。用意しとけよ」
そう言えば、時間に厳しいのは寧ろコイツの方な気がする。待ち合わせ時刻に遅れた試しはないし、店もキッチリ定刻に暖簾を下ろしているし。
「ありがとうございます。車あると助かるよねーお婆ちゃん」
期末試験はすぐなのに。本当にお前は凄いやつだよ。葵には勿体ないよ。益々この人徳溢れる青年の母親に会うのが楽しみになってくる。
「まーな。アンタ、疲れたらいつでも代わってやるからよっ」
「ああ、それは頼む」
忍が疑心暗鬼な視線ビームを光子に発射しながら、
「ちょっと姐さん。マジ日曜の夕方には帰ってきてくださいよ。一人じゃキツイんすから、この季節はっ」
忘年会シーズン真っ最中だ。そう言えばこの間の偽食中毒による予約キャンセル事案は、特に口コミに上がることもなく、その後は順調に予約満席状態が続いている。洒落でなく、忍一人ではとても店は回るまい。
「わかってるって。そん代わり、クリスマスは行ってこい、やってこい!ってか」
「もー、ホント頼んますよー」
俺は初めて忍に申し訳ない、と頭を下げ、
「ゴメンな忍ちゃん。お土産楽しみにしててよ」
「山梨のドンペリ、頼みますよ〜」
ねえわ。山梨にそれだけは。