第3章 第5話

文字数 1,015文字

 去年の4月に専務として入社して以来、俺には以下の様な噂が立っていたらしい……

・元三葉銀行支店長だったが妊娠した愛人を殴打し告訴された
・奥さんが倒れた日に隠し子の学校行事に参列していた
・若い女子が大好きで気に入ると正社員にして囲っていた
・支店長室であんな事こんな事をしたりさせていた
・借金に苦しむ顧客の若妻達を性奴隷にしていた
・部下の妻を性奴隷にしていた

「おいこら。俺の方が酷くないか…?」

 俺がブルブル拳を震わせながら吐き捨てると、
「安心してください専務。私は半分も信じておりませんでしたが何か?」
「1/3は信じてたんだな…」

 庄司はプッと頬を膨らませ、
「だって… ずっと不機嫌だったし… 私たちに話しかけることも無かったし…」
「そうだった… すまん、あの頃は…」

 そんな俺に声をかけ続けてくれた唯一人の女子社員、庄司智花。俺はお前を絶対見捨てたり裏切ったりはしない。お前の夢を全力で応援してやるっ と決意しているその横で、山本くんがとんでもない暴言を言い放つ。

「で… 姐さんもキンさんの性奴隷なんっ…… んぎゃー」
 グシャっという腐ったトマトが潰れる音がした。なんて事はない、光子のカウンター越しの正拳突きが山本くんの左の頬を直撃しただけだ。仰け反って倒れそうな山本くんをすかさず庄司が支える。

「な、なんて事を言うんですかせんぱいっ 姐御っ せんぱいが大変失礼な事を…」
「ったくこのクソガキが〜 オメエ、この週末、よーーく教育しとくんだぞコラ」
「は、ハイ! 了解しましたっ」
「じゃあ、とっとと連れて帰れいっ」
「へ? 何処へ…?」

 光子がニヤニヤ笑いながら、
「オメーん家か、小僧ん家か、どっちでもいーわ。オラ、早く冷やさねーと青タン残んぞ!」
「ヒーー わ、わかりましたっ では取り敢えず、私の家にお持ち帰りますが何か?」
「よし。オメーん家何処だ?」
「船橋ですが何か?」

 あはははは…… 我が職場にも明るい春の訪れか。まあこうしてみると、そこそこお似合いな気がするな。しっかり者の彼女にお調子者の彼氏。その二律背反性が長い目で見ると良好な関係につながるのでは。これからはこんな二人を生温かく見守ってやるとするか。

「よし。明日明後日が命だぞ。よーーーく冷やさねえと、コイツの痣は一生顔に残るからな」
「ヒーーー」
「これぞ『性拳』、なんちって」

 アホかコイツ、とばかりに光子の頭をポカリと殴ると、唖然として俺を見続ける庄司なので合った。
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