第2章 第11話

文字数 1,489文字

「で、先生よう、いつからセックスしていいんだい?」

 普段無口で一見無愛想な橋上先生はブッと吹き出す。苦しそうにお腹を押さえながら、
「奥さん。フツーにまだしてないの?」
「だって… 先生が激しい運動はダメって…」
「金光さんが激しく動かないような体位ですりゃいいじゃん」
 呆れ顔で先生が突き放す。

「エ… 例えば…」
「騎乗位とか。奥さん細くて軽いからフツーにやれんじゃん?」
「…… アンタやり方知ってっか?」
「フッ 教えてやるよ奥さん。こーやんだよ。よく見といて〜」

 徐に橋上先生は横たわって筋トレをしている俺に跨り、解説を始める。
「いーかい。先ずはしっかり勃たせるんだよ。半ダチだと中折れしちゃうからねー」
「ハイっ」
「そんで右手でこう持って、こんな風に…」

 真剣な顔で頷く光子。途中から話を盛り始める先生。それを信じてさらに深く頷く。先生、そんな体位ホントに可能なんでしょうか?
「江戸時代の春画ではこうなってんだけどさ。上手くいかないんだわ、旦那とじゃ。今度フツーに試してみようか金光さん?」
「て、テメー、ドサクサに紛れて人のオトコ…」
「じゃ、奥さん試してみてさ、結果教えてよー」
 ここにも光子を弄れる強烈なキャラの人がいる。

「じゃあ、もう松葉杖は…」
「うん。要らないんじゃね。全荷重で歩いて良し」
「アンタ、良かったねえ! 頑張ったねえ!」
「奥さん、ヒザ蹴りはNGだからね。やるなら松葉崩しで」
 48手の知識がまるで無い光子はただ無心に頷くだけだ。

「先生… さっきから淡々と物凄い話を… ところで、骨の中の髄内針を取る手術はいつ?」
 先生は真剣な顔に戻り、
「金光さん、50代じゃない。あと足首とか膝から負傷部位が離れてるよね、」
「はい。どちらもその通りです」
「だから、このまま抜かないでいいんじゃないかな。今度外科の診察の時に聞いてみ」
「え… それって一生このままなんですか?」

 腕を組みながら何度も頷く。医師よりもこの先生の意見の方が確かに感じるのは俺だけであろうか?
「そう。フツーそんな感じだよ。10代とかの若い子とか足首や膝とかの可動域に近いなら抜くけど」
「そうなんだ。じゃあ、もう手術は無いと…」
「そうだね。リハビリも全荷重でフツーに歩けるようになったら、週一でいいんじゃね?」
「そしたらよ、激しい運動も…アレか?」

 光子が顔を赤く染めながらゴクリと唾を飲み込む。
「奥さん、溜まってんねー ウケる〜」
「ば、バカ、そんなんじゃねーっつうーの…」
 でも、良かった。完治はまだまだ先だが、これで会社にフツーに行ける。それに、光子と…

「もう車の運転も出来そうだし。これからはリハビリ一人で行くよ」
「バーカ。アンタの運転じゃ危ねえっつーの。マジ運転ヘタクソだし」
「まあ… 日頃殆ど運転しないから… それにしてもお前ホント上手いよな運転」

 俺も決して下手な方では無いと思うのだが、光子には絶対に敵わない。
「そりゃー、20年以上、大型転がしてたからなっ」
「大型って… トラック? 長距離トラックか?」
「それな。それでガキ食わせてたし」

 聞いてなかった。そう言えば知り合って半年以上経つのに、未だに知らない事だらけだ。特に三人目の子供を産んでから居酒屋をオープンさせるまでの話は殆ど聞いたことが無い。
「あれー、言ってなかったっけか? アンタとは昔からの付き合いじゃねーんだわな、そー言えば。ま、ボチボチ話てくし。おう、今度真琴にも聞けばいーじゃんか」
「ああ、甲府の。ん? あれっ? なあ、甲府って… 塩山と近いのか?」
「近いも何も〜 真琴の旦那が殺した相手の墓、塩山だし」

「なん… だと…?」
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