第4章 第5話
文字数 1,779文字
翌朝。
庄司からお白瀬が入る。
『これより探索開始。14時までに発見出来なければ下山。雪やや厳し』
部屋のカーテンを開けると、一面見事な雪景色だ。このまま温泉へ行きたい誘惑に駆られつつ、四人の健闘を一人そっと祈る。
口を開けて胸元を惜しみも無くはだけて寝ている光子にちょっと欲情するも、公私混同はいかんと己の頬を叩き邪念を払う。そんな光子を叩き起こし露天の家族風呂に誘う。仕方ねーなーと寝ぼけながら胸元を閉めさせて部屋を出る。
脱衣所に先に入らせて暫し外で雪を堪能する。こうして眺めている雪は都会とは現実離れした風情があり感動すら覚えるのだが、社長や庄司達は今この雪と悪戦苦闘していると思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
もーいーぞー、と声がしたので脱衣所に入り、浴衣を脱ぎ風呂場の扉を開ける。そこは銀世界の自然の樹々を背景に檜造りの立派な湯船から立ち上る湯気が幻想的な非日常世界であった。 そして湯煙に霞んで光子の白い背中が目に入る。
「サイコー、だな……」
頷きながら静かに湯船に入る。
「社長達が頑張っているのに、俺たちは最高の気分なんて、申し訳ないな… でも、コレは今までで一番の風呂だよ」
「チゲーねー。人間生きてりゃ、こんないい事もあんだな。あの… ありがとう…」
出た! 突然の人格変化!
「ど、どうした急に…」
「ううん。本当に感謝してるんだよ… 軍司と会ってなかったらこんな景色見ることなんて出来なかった」
「お、おう」
「これからも… こうして一緒なの… かな…」
あの光子が。地元や会社で人間凶器としてあれ程恐れられている光子が。今は清廉無垢な美魔女なのだ。俺の理想のお淑やかで品がある淑女。思わず声が震えてしまう。
「これからも。そして、来世でも…」
「ハアー? 何言ってんだアンタ。『テメーの名は』じゃねーっつーの」
あ… 急に素に戻ってしまった。振り返ると、何故か泉さんと村上が入ってくる!
「いやー。お二人共、お早いですなー。どうです湯加減は?」
「ちょ、ちょっと泉さん、それに村上っ ここ、家族風呂…」
あ… 使用中の札をかけるの忘れてた…
「えーー。いーじゃん。自分らだけずるいしー。姐さん、ご一緒にいいですよねー?」
「おーーー。よく来たな。さあ、入れ入れ。ビシッと入れ!」
泉さんは良いとして。会社の部下、それも若い女子と共に入浴は流石にコンプライアンスに反する行為なのでは……
「えー、キン様と姐御、それにいずみんとお風呂一緒ってチョー最高じゃないですか! ねーいずみんっ」
もしやこの子は流行りの『枯れ専』なのか?
「いやーー。この方は只の歴女、じゃあございませんよ。筋金入りの『歴史家』と睨みましたよ私は。何でも大学院まで行って歴史の研究をされていたとか」
大学院だと? 俺の頭の中のファイルを開くと、……おおお、東陽大学大学院卒。
「すごいな村上。で専攻は?」
「日本統治時代の台湾でーす」
「外国かよ…」
俺はちょっとがっかりしていると、目を輝かせながら
「いやー。金光さん。台湾ですよ、台湾。ほら、アンバサダーの李さんのいる!」
な、なんと。俺のこの怪我の元になった日光への中学時代の仲間達との団体旅行でお世話になったアンバサダーホテルチェーンは台湾が本社だ。泉さんは台湾に存在するまだ誰も知らない秘湯を探し出すのがライフワークなのだと言っていたが。そしていつか李さんの協力の下、その夢を実現させたいと語っていたが。
「聞いた〜聞いた〜 いずみんの夢、私も手伝わせてくださいね〜 何でも知ってますよ、戦前の台湾のことなら」
うーーん。実に微妙… どれだけ役に立つのだろうか。
俺も出来るだけ泉さんのお手伝いをしようと思っている。そしてその成果をこの会社に還元できれば、一気に日本を代表する旅行代理店にのしあがれるかも知れない。上手くいけばアンバサダーグループの専属代理店になれるかも知れない、もしそうなったら今の会社生活は激変するだろう。ワールドワイドなグローバル活動が中心となって、世界中の観光地をリサーチし続ける、そしてその横には光子が……
そんな妄想に耽っている横で、泉さんは村上と光子相手に温泉について語っている。掌に湯を掬い軽く口に含む様は正にベテランのソムリエの様な仕草だ。真剣に聞き入っている二人を残し、俺はそっと湯船を出る。
庄司からお白瀬が入る。
『これより探索開始。14時までに発見出来なければ下山。雪やや厳し』
部屋のカーテンを開けると、一面見事な雪景色だ。このまま温泉へ行きたい誘惑に駆られつつ、四人の健闘を一人そっと祈る。
口を開けて胸元を惜しみも無くはだけて寝ている光子にちょっと欲情するも、公私混同はいかんと己の頬を叩き邪念を払う。そんな光子を叩き起こし露天の家族風呂に誘う。仕方ねーなーと寝ぼけながら胸元を閉めさせて部屋を出る。
脱衣所に先に入らせて暫し外で雪を堪能する。こうして眺めている雪は都会とは現実離れした風情があり感動すら覚えるのだが、社長や庄司達は今この雪と悪戦苦闘していると思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
もーいーぞー、と声がしたので脱衣所に入り、浴衣を脱ぎ風呂場の扉を開ける。そこは銀世界の自然の樹々を背景に檜造りの立派な湯船から立ち上る湯気が幻想的な非日常世界であった。 そして湯煙に霞んで光子の白い背中が目に入る。
「サイコー、だな……」
頷きながら静かに湯船に入る。
「社長達が頑張っているのに、俺たちは最高の気分なんて、申し訳ないな… でも、コレは今までで一番の風呂だよ」
「チゲーねー。人間生きてりゃ、こんないい事もあんだな。あの… ありがとう…」
出た! 突然の人格変化!
「ど、どうした急に…」
「ううん。本当に感謝してるんだよ… 軍司と会ってなかったらこんな景色見ることなんて出来なかった」
「お、おう」
「これからも… こうして一緒なの… かな…」
あの光子が。地元や会社で人間凶器としてあれ程恐れられている光子が。今は清廉無垢な美魔女なのだ。俺の理想のお淑やかで品がある淑女。思わず声が震えてしまう。
「これからも。そして、来世でも…」
「ハアー? 何言ってんだアンタ。『テメーの名は』じゃねーっつーの」
あ… 急に素に戻ってしまった。振り返ると、何故か泉さんと村上が入ってくる!
「いやー。お二人共、お早いですなー。どうです湯加減は?」
「ちょ、ちょっと泉さん、それに村上っ ここ、家族風呂…」
あ… 使用中の札をかけるの忘れてた…
「えーー。いーじゃん。自分らだけずるいしー。姐さん、ご一緒にいいですよねー?」
「おーーー。よく来たな。さあ、入れ入れ。ビシッと入れ!」
泉さんは良いとして。会社の部下、それも若い女子と共に入浴は流石にコンプライアンスに反する行為なのでは……
「えー、キン様と姐御、それにいずみんとお風呂一緒ってチョー最高じゃないですか! ねーいずみんっ」
もしやこの子は流行りの『枯れ専』なのか?
「いやーー。この方は只の歴女、じゃあございませんよ。筋金入りの『歴史家』と睨みましたよ私は。何でも大学院まで行って歴史の研究をされていたとか」
大学院だと? 俺の頭の中のファイルを開くと、……おおお、東陽大学大学院卒。
「すごいな村上。で専攻は?」
「日本統治時代の台湾でーす」
「外国かよ…」
俺はちょっとがっかりしていると、目を輝かせながら
「いやー。金光さん。台湾ですよ、台湾。ほら、アンバサダーの李さんのいる!」
な、なんと。俺のこの怪我の元になった日光への中学時代の仲間達との団体旅行でお世話になったアンバサダーホテルチェーンは台湾が本社だ。泉さんは台湾に存在するまだ誰も知らない秘湯を探し出すのがライフワークなのだと言っていたが。そしていつか李さんの協力の下、その夢を実現させたいと語っていたが。
「聞いた〜聞いた〜 いずみんの夢、私も手伝わせてくださいね〜 何でも知ってますよ、戦前の台湾のことなら」
うーーん。実に微妙… どれだけ役に立つのだろうか。
俺も出来るだけ泉さんのお手伝いをしようと思っている。そしてその成果をこの会社に還元できれば、一気に日本を代表する旅行代理店にのしあがれるかも知れない。上手くいけばアンバサダーグループの専属代理店になれるかも知れない、もしそうなったら今の会社生活は激変するだろう。ワールドワイドなグローバル活動が中心となって、世界中の観光地をリサーチし続ける、そしてその横には光子が……
そんな妄想に耽っている横で、泉さんは村上と光子相手に温泉について語っている。掌に湯を掬い軽く口に含む様は正にベテランのソムリエの様な仕草だ。真剣に聞き入っている二人を残し、俺はそっと湯船を出る。