第3章 第3話
文字数 1,473文字
「おーー、いーじゃねーか。塩山の高級旅館。アンタの部下達と一緒にガッツリ飲むかコラ」
その週末の金曜日。庄司と山本くんを『しまだ』に連れてくる。
「あ、姐さん、ど、ど、どうぞお手柔らからからかに…」
「山本先輩。何言ってるかわかりませんが」
山本くんは急に先輩風を吹かせながら、
「怒るなって庄司〜 確かにお前、頑張り過ぎ。専務の仰る通り、明日明後日はしっかり休めよ〜」
「おい小僧」
光子が目をギラリと光らせるとまたもや情けない山本くんに逆戻り。これ結構面白い。
「ヒーーー な、な、何でしょう…」
「仕事っつーのはよう、若いうちは、二、三日寝ねえで気合い入れてやるもんだろうがコラ」
庄司がドンとカウンターを拳で叩きながら、
「ですよね。ですよね姐御っ」
ど、どうした庄司… お前酒強かったよな…? てか、姐御って?
「まーでもよ。コイツらが『休め』っつーなら、休め」
「え…?」
庄司は真顔で光子を見つめる。
「オメエの事、信頼してるコイツらが、オメーがぶっ倒れたらどんな思いするか、わかるか、ああ?」
「あっ…」
「テメーの仲間、心配させちゃいけねえ。悲しませちゃいけねえ」
「姐御…」
大きな瞳からポロポロこぼれ落ちる大粒の涙。そうだ。庄司、少し立ち止まれ。周りをゆっくり見ろ。一息着くんだ。それから大暴れしろ。
「わたし… 負けたくなかった。新人だからって言い訳したくなかった。社長のコネで入社したフツーのOLとして見られたくなかった」
「わかってるって。みんなお前のこと認めてるって」
山本くんが先輩らしく優しく言い諭す。
「オラはただの山バカ女どすて見られたくねがっただ」
「「「へ?」」」
「山さ登るすか脳のね、使えねへなとすて見られだぐねがったのよ」
「「「は、はい?」」」
俺の机にしまってある庄司智花のES(エントリーシート)を脳裏に引っ張り出す。出身地、山形県天童市……
「オラは鳥羽先輩さ、社長さ認めでもらいだぇっけのよ! うわぁああーーん」
俺は視線で、呆然と庄司を見ている山本くんに合図をする。
「あ、ああ、そうなん… でもさ、でもな庄司、みんなお前のことを本当に心配してんだよ。お前がメチャクチャ頑張ってるの知っているからさ。だからさ、ここでちょっと足を止めて、周りを見るんだ。ちょっと一休みしようよ、何なら俺が付き合うから、さ」
「せ・ん・ぱ・い…」
急に悪寒が走るー 何ならカウンターチェアーから半分落っこちかける… あービックリした…突然なんて言うことを…
光子を見ると、軽く口角を上げ俺を睨んでいる… ああ怖。
「それにしても、営業部との確執、どうにかならんのか?」
若い二人がいい感じになった頃合いに、俺もつい日頃の愚痴が出てしまう。銀行時代に組織や部下の悪口を他人に漏らした事はない、本当に俺も変わったもんだぜ。
「それは非常に難しいと思いますよ、マジで」
それに、こんな風に部下と愚痴り合ったりしたこともない。意外に楽しい。こんな事なら銀行時代もやっとけば良かったわ。でも支店長にはなれんかったろうな…
「何とかしたいんだけどな… 俺が」
山本くんが苦笑いしながら、
「あー、それは無理。絶対、無理ですねー」
「そうかも知れませんね。専務のお力ではちょっと…」
すっかり元気を取り戻した庄司もウンウンと頷いていやがる。
「な、何だよ二人とも… 俺じゃ無理って、やってみないとそんなのわからな…」
山本くんが首を振りながら大きな溜息をつく。そして、事もあろうか俺の肩をポンポンと叩きながら、こう言ったもんだ!
「だって。そもそもの原因が、専務なんですから!」
その週末の金曜日。庄司と山本くんを『しまだ』に連れてくる。
「あ、姐さん、ど、ど、どうぞお手柔らからからかに…」
「山本先輩。何言ってるかわかりませんが」
山本くんは急に先輩風を吹かせながら、
「怒るなって庄司〜 確かにお前、頑張り過ぎ。専務の仰る通り、明日明後日はしっかり休めよ〜」
「おい小僧」
光子が目をギラリと光らせるとまたもや情けない山本くんに逆戻り。これ結構面白い。
「ヒーーー な、な、何でしょう…」
「仕事っつーのはよう、若いうちは、二、三日寝ねえで気合い入れてやるもんだろうがコラ」
庄司がドンとカウンターを拳で叩きながら、
「ですよね。ですよね姐御っ」
ど、どうした庄司… お前酒強かったよな…? てか、姐御って?
「まーでもよ。コイツらが『休め』っつーなら、休め」
「え…?」
庄司は真顔で光子を見つめる。
「オメエの事、信頼してるコイツらが、オメーがぶっ倒れたらどんな思いするか、わかるか、ああ?」
「あっ…」
「テメーの仲間、心配させちゃいけねえ。悲しませちゃいけねえ」
「姐御…」
大きな瞳からポロポロこぼれ落ちる大粒の涙。そうだ。庄司、少し立ち止まれ。周りをゆっくり見ろ。一息着くんだ。それから大暴れしろ。
「わたし… 負けたくなかった。新人だからって言い訳したくなかった。社長のコネで入社したフツーのOLとして見られたくなかった」
「わかってるって。みんなお前のこと認めてるって」
山本くんが先輩らしく優しく言い諭す。
「オラはただの山バカ女どすて見られたくねがっただ」
「「「へ?」」」
「山さ登るすか脳のね、使えねへなとすて見られだぐねがったのよ」
「「「は、はい?」」」
俺の机にしまってある庄司智花のES(エントリーシート)を脳裏に引っ張り出す。出身地、山形県天童市……
「オラは鳥羽先輩さ、社長さ認めでもらいだぇっけのよ! うわぁああーーん」
俺は視線で、呆然と庄司を見ている山本くんに合図をする。
「あ、ああ、そうなん… でもさ、でもな庄司、みんなお前のことを本当に心配してんだよ。お前がメチャクチャ頑張ってるの知っているからさ。だからさ、ここでちょっと足を止めて、周りを見るんだ。ちょっと一休みしようよ、何なら俺が付き合うから、さ」
「せ・ん・ぱ・い…」
急に悪寒が走るー 何ならカウンターチェアーから半分落っこちかける… あービックリした…突然なんて言うことを…
光子を見ると、軽く口角を上げ俺を睨んでいる… ああ怖。
「それにしても、営業部との確執、どうにかならんのか?」
若い二人がいい感じになった頃合いに、俺もつい日頃の愚痴が出てしまう。銀行時代に組織や部下の悪口を他人に漏らした事はない、本当に俺も変わったもんだぜ。
「それは非常に難しいと思いますよ、マジで」
それに、こんな風に部下と愚痴り合ったりしたこともない。意外に楽しい。こんな事なら銀行時代もやっとけば良かったわ。でも支店長にはなれんかったろうな…
「何とかしたいんだけどな… 俺が」
山本くんが苦笑いしながら、
「あー、それは無理。絶対、無理ですねー」
「そうかも知れませんね。専務のお力ではちょっと…」
すっかり元気を取り戻した庄司もウンウンと頷いていやがる。
「な、何だよ二人とも… 俺じゃ無理って、やってみないとそんなのわからな…」
山本くんが首を振りながら大きな溜息をつく。そして、事もあろうか俺の肩をポンポンと叩きながら、こう言ったもんだ!
「だって。そもそもの原因が、専務なんですから!」