第1章 第9話
文字数 1,132文字
翌週。
天気が悪かったので午前中のリハビリをサボり、光子に散々貶されつつ会社に行くと珍しい方が見えている。
この4月から不思議な縁で繋がっている、泉さんだ。彼はISSAという世界中の温泉の調査、評価をする団体に所属し、世界でも数名しかいないシニアインスペクターとして活躍している。
その団体の性格上、一つの旅行会社と緊密な関係を持つのはタブーであり、今までも会社を通じず、俺個人を通して色々とお世話になってきた。そんな彼が一体どうして…
「いやー、金光さん。貴方の行く先々は退屈する暇がありませんな、間宮由子さんの騒動、お聞きしましたぞ」
「泉さん、どうも… ご無沙汰してます、が?」
「いやー、何でも間宮さんとは懇親の間柄だそうで。羨ましい限りですな、はっはっは」
そんな話をしに来た訳ではあるまい。本当に何があったのだろう。取り敢えず社長を紹介することにし、
「ええと、こちらが社長の鳥羽です」
鳥羽は目を大きく見開き、驚きの表情を隠さずに頭を下げ、
「鳥羽でございます。色々と大変お世話になっております」
「いやー、若い社長さんで。でも貴方、いい目をしてらっしゃる」
「はい?」
「この人。金光さんを拾ったの貴方でしょう?」
「拾ったなんてとんでもない! お願いして来ていただいたので…」
そんな事はない。銀行の閑職で燻っていた俺を呼んでくれた。簡単な面接はあったが、専務取締役の待遇で俺をこの会社に迎えてくれた。
自身が学生時代バックパッカーだか山登りが好きだかで、夢を追い続けたらこの会社を興していたそうだ。そんな彼の思いが社風に重なっており、社員の多くが旅好き元バックパッカー。社員になっても何かしらの夢を持っている者が多いようだ。
「でも、どうしてここへ?」
俺の怪訝そうな顔を優しく笑いながら、
「いやー、ちょっとこの会社を見たくなりまして。あの金光さんがいる会社、をね」
会社、を? だってアンタ、旅行業界とは明確に線引きしなければならない、って言ってたじゃない。特定の旅行会社と懇意にしてはならない、って言ってたじゃない?
それに今ちょっと気になることを言った気がする。
「『あの金光』、って… 何なんですか?」
俺の顔をじっと眺め、何度も頷きながら、
「台湾の李さん。『あおば』の女将。皆、貴方のこと、その行動力、企画力、発想性の豊かさなどを褒めちぎっていますので」
「そんな… お恥ずかしい…」
ここまで面と向かって褒められるとこそばゆい。俺の横の社長が深く何度も頷く。
「そんな貴方に、ちょっとお願いがありまして」
「何でも言ってくださいよ。僕に出来ることなら何でも」
「いやー、でもこれ、金光さん個人に、というよりも…」
「ハア?」
「御社に、お願い、が正しいのかな?」
天気が悪かったので午前中のリハビリをサボり、光子に散々貶されつつ会社に行くと珍しい方が見えている。
この4月から不思議な縁で繋がっている、泉さんだ。彼はISSAという世界中の温泉の調査、評価をする団体に所属し、世界でも数名しかいないシニアインスペクターとして活躍している。
その団体の性格上、一つの旅行会社と緊密な関係を持つのはタブーであり、今までも会社を通じず、俺個人を通して色々とお世話になってきた。そんな彼が一体どうして…
「いやー、金光さん。貴方の行く先々は退屈する暇がありませんな、間宮由子さんの騒動、お聞きしましたぞ」
「泉さん、どうも… ご無沙汰してます、が?」
「いやー、何でも間宮さんとは懇親の間柄だそうで。羨ましい限りですな、はっはっは」
そんな話をしに来た訳ではあるまい。本当に何があったのだろう。取り敢えず社長を紹介することにし、
「ええと、こちらが社長の鳥羽です」
鳥羽は目を大きく見開き、驚きの表情を隠さずに頭を下げ、
「鳥羽でございます。色々と大変お世話になっております」
「いやー、若い社長さんで。でも貴方、いい目をしてらっしゃる」
「はい?」
「この人。金光さんを拾ったの貴方でしょう?」
「拾ったなんてとんでもない! お願いして来ていただいたので…」
そんな事はない。銀行の閑職で燻っていた俺を呼んでくれた。簡単な面接はあったが、専務取締役の待遇で俺をこの会社に迎えてくれた。
自身が学生時代バックパッカーだか山登りが好きだかで、夢を追い続けたらこの会社を興していたそうだ。そんな彼の思いが社風に重なっており、社員の多くが旅好き元バックパッカー。社員になっても何かしらの夢を持っている者が多いようだ。
「でも、どうしてここへ?」
俺の怪訝そうな顔を優しく笑いながら、
「いやー、ちょっとこの会社を見たくなりまして。あの金光さんがいる会社、をね」
会社、を? だってアンタ、旅行業界とは明確に線引きしなければならない、って言ってたじゃない。特定の旅行会社と懇意にしてはならない、って言ってたじゃない?
それに今ちょっと気になることを言った気がする。
「『あの金光』、って… 何なんですか?」
俺の顔をじっと眺め、何度も頷きながら、
「台湾の李さん。『あおば』の女将。皆、貴方のこと、その行動力、企画力、発想性の豊かさなどを褒めちぎっていますので」
「そんな… お恥ずかしい…」
ここまで面と向かって褒められるとこそばゆい。俺の横の社長が深く何度も頷く。
「そんな貴方に、ちょっとお願いがありまして」
「何でも言ってくださいよ。僕に出来ることなら何でも」
「いやー、でもこれ、金光さん個人に、というよりも…」
「ハア?」
「御社に、お願い、が正しいのかな?」