第4章 第8話
文字数 2,028文字
真琴さんが宿を後にしたのと入れ替わりで三ツ矢部長が宿に到着する。大広間に入って来るなり、
「全く、ここはサークルの冬合宿か! 布団で寝てるヤツ叩き起こせ。仕事しろ、仕事。って言っても、今回はろくな結果が出ないだろうけどな」
企画部は完全に無視。村松課長が立ち上がり、彼を部屋の外に連れ出そうとするが
「金光専務。随分と弛みきった様子ですねえ。遊びに来ているんじゃないんですよ、会社の金で働きに来ているんですよ。ちゃんとしてもらわないと困りますなっ」
営業一筋の有無を言わせない強い声音で俺を威嚇する。
「この三日間で幾ら金がかかったかご存知ですよねえ。ちゃんと結果出してくれますよね。困りますよ、結局何も見つかりませんでしたーじゃ。ガキの探検ごっこじゃないんですから!」
ほお。中々グイグイ来るねえ。若くてイキのいい事だ。
「さあ。あと二時間か? 終わったらとっとと撤収するぞ。村松、今回の経費、細かく計算しとけよ。責任は全て専務がとってくださるからな」
「そんな言い方ないでしょう。酷い!」
「遊びに来てる訳じゃねーよ。何なんだよっ」
そんな非難の声に決然と、
「じゃあ、結果出せ。結果。山に入ってる四人のケツひっぱたいて、結果出せよ!」
まあ、割と正論だ。普通の会社ならこれくらいは当然の発破だ。しかし普通でないこんな小さな会社ではこれは余り効果がない。皆膨れっ面で昼飯を食べに食堂へと向かう。
広間にはそれでも微動だにしない三名の布団部隊と営業部の三人と俺、そして三ツ矢が残る。
「金光さん、これどう責任取るんですか?」
三ツ矢が挑戦的な目付きで俺に食ってかかる。
「これで何も見つかりませんでした、じゃ済ませませんよ。今度の役員会で議題に載せますから。いいですね」
いいもクソも、役員って社長、俺、田所常務の三人だけどな…
「最近の貴方の主導する企画、かけた経費の割にはリターンがどうなんですかね。その辺りじっくり考えておいてくださいよ。支店長さん」
「元、支店長な。それに今は専務だが。で? 役員会で議題に上げて、どうするの?」
「貴方の責任問題を徹底的に追求しますよ。この小さな会社で貴方がどれだけ横暴に振舞っているか。どれだけ会社の経営に負の影響を与えているか。ま、経理の数字を見れば一目瞭然ですがね」
「そんなヒマがあるんだったらお前ももっとマシな営業してこいよ。俺たちこれから忙しいんんだ。温泉にでも入って来なさいよ」
三ツ矢は俺を睨みつけ、ああそうします、と部屋を出て行く。銀行時代なら徹底的に反論し叩き潰す所だが。まあ彼も若いし。その理念の半分くらいは彼の言う通りだし。あの素晴らしい湯にでもゆっくり浸かれば少しは丸くなるかも知れない。まあムリだろうけれど。
昼食を終えたメンバーが続々と部屋に戻り、探検隊と連絡を取り合う。何でも雪が一時的に止んでいるらしく、残り時間目一杯探索を続けるという。
「なあ、俺は登山した事ないのだが、やはり雪山登山は体力的にもキツいんだろ?」
「そうですね。ですが四人とも錚錚たる面子ですからね。この山位ならハイキングに毛が生えた程度じゃないですか」
まあ… エベレストだの劒岳だのに比べればそうかも知れないが。何せ経験がないものだから彼らが今どんな様子でどんな風に探索しているのか、想像もつかない。
「雪山で一番怖いのは雪崩ですかね。でも降り始めで気温が下がっているこの季節なら問題ないでしょう。それよりも…」
「それよりも?」
「彼等にとっては簡単すぎるこの山で、それぞれが夢中になって見つけるまで帰らない! とか言い出す方が怖いかな」
俺はプッと吹き出してしまう。
「それなー 社長とか言いそう。『明日は会社休業にします』とか言いそう」
「バーカ。そんな事したら、誰かさんにあっという間に乗っ取られちまうぜ。油断も隙もねえ、アイツに」
「それなー。マジで狙ってそう」
散々な言われようだな、三ツ矢は。このまま14時まで温泉に入っていてくれれば良いのだが。
13時。残り一時間。誰かが晴れ間が見えてます、と言う。外に出てみると確かに雪は止み、雲の隙間から薄く太陽の光が差している。
いつの間にか隣にiQOSを吸っている光子がいる。昼食を終えたのかと言うと
「ここのホウトウはうめえなあ。ウチの店でもやるかな〜」
なんて言いながら旨そうに煙を吐いている。
「で。どうなんだい、山の連中は?」
「雪は止んでいるらしい。どちらにせよ、あと一時間だ」
ふーん、と呟きながら紫煙を上に吹き上げる。
「アンタ、見つかると思う?」
「わからん。ちょっと厳しいんじゃないかな…」
正直に今の現況を口にすると、
「バーカ。上に立つヤツがそんなんじゃ駄目だろーが。アンタが信じなきゃ下も動かねーぞ」
流石、元不良集団を束ねただけの大器だ。
「…ハハハ、その通りだ。ちょっと尻引っ叩いてくるかな」
「そーしろそーしろ。このドS野郎! ギャハ」
それ…… いるか、彼氏に対して…
「全く、ここはサークルの冬合宿か! 布団で寝てるヤツ叩き起こせ。仕事しろ、仕事。って言っても、今回はろくな結果が出ないだろうけどな」
企画部は完全に無視。村松課長が立ち上がり、彼を部屋の外に連れ出そうとするが
「金光専務。随分と弛みきった様子ですねえ。遊びに来ているんじゃないんですよ、会社の金で働きに来ているんですよ。ちゃんとしてもらわないと困りますなっ」
営業一筋の有無を言わせない強い声音で俺を威嚇する。
「この三日間で幾ら金がかかったかご存知ですよねえ。ちゃんと結果出してくれますよね。困りますよ、結局何も見つかりませんでしたーじゃ。ガキの探検ごっこじゃないんですから!」
ほお。中々グイグイ来るねえ。若くてイキのいい事だ。
「さあ。あと二時間か? 終わったらとっとと撤収するぞ。村松、今回の経費、細かく計算しとけよ。責任は全て専務がとってくださるからな」
「そんな言い方ないでしょう。酷い!」
「遊びに来てる訳じゃねーよ。何なんだよっ」
そんな非難の声に決然と、
「じゃあ、結果出せ。結果。山に入ってる四人のケツひっぱたいて、結果出せよ!」
まあ、割と正論だ。普通の会社ならこれくらいは当然の発破だ。しかし普通でないこんな小さな会社ではこれは余り効果がない。皆膨れっ面で昼飯を食べに食堂へと向かう。
広間にはそれでも微動だにしない三名の布団部隊と営業部の三人と俺、そして三ツ矢が残る。
「金光さん、これどう責任取るんですか?」
三ツ矢が挑戦的な目付きで俺に食ってかかる。
「これで何も見つかりませんでした、じゃ済ませませんよ。今度の役員会で議題に載せますから。いいですね」
いいもクソも、役員って社長、俺、田所常務の三人だけどな…
「最近の貴方の主導する企画、かけた経費の割にはリターンがどうなんですかね。その辺りじっくり考えておいてくださいよ。支店長さん」
「元、支店長な。それに今は専務だが。で? 役員会で議題に上げて、どうするの?」
「貴方の責任問題を徹底的に追求しますよ。この小さな会社で貴方がどれだけ横暴に振舞っているか。どれだけ会社の経営に負の影響を与えているか。ま、経理の数字を見れば一目瞭然ですがね」
「そんなヒマがあるんだったらお前ももっとマシな営業してこいよ。俺たちこれから忙しいんんだ。温泉にでも入って来なさいよ」
三ツ矢は俺を睨みつけ、ああそうします、と部屋を出て行く。銀行時代なら徹底的に反論し叩き潰す所だが。まあ彼も若いし。その理念の半分くらいは彼の言う通りだし。あの素晴らしい湯にでもゆっくり浸かれば少しは丸くなるかも知れない。まあムリだろうけれど。
昼食を終えたメンバーが続々と部屋に戻り、探検隊と連絡を取り合う。何でも雪が一時的に止んでいるらしく、残り時間目一杯探索を続けるという。
「なあ、俺は登山した事ないのだが、やはり雪山登山は体力的にもキツいんだろ?」
「そうですね。ですが四人とも錚錚たる面子ですからね。この山位ならハイキングに毛が生えた程度じゃないですか」
まあ… エベレストだの劒岳だのに比べればそうかも知れないが。何せ経験がないものだから彼らが今どんな様子でどんな風に探索しているのか、想像もつかない。
「雪山で一番怖いのは雪崩ですかね。でも降り始めで気温が下がっているこの季節なら問題ないでしょう。それよりも…」
「それよりも?」
「彼等にとっては簡単すぎるこの山で、それぞれが夢中になって見つけるまで帰らない! とか言い出す方が怖いかな」
俺はプッと吹き出してしまう。
「それなー 社長とか言いそう。『明日は会社休業にします』とか言いそう」
「バーカ。そんな事したら、誰かさんにあっという間に乗っ取られちまうぜ。油断も隙もねえ、アイツに」
「それなー。マジで狙ってそう」
散々な言われようだな、三ツ矢は。このまま14時まで温泉に入っていてくれれば良いのだが。
13時。残り一時間。誰かが晴れ間が見えてます、と言う。外に出てみると確かに雪は止み、雲の隙間から薄く太陽の光が差している。
いつの間にか隣にiQOSを吸っている光子がいる。昼食を終えたのかと言うと
「ここのホウトウはうめえなあ。ウチの店でもやるかな〜」
なんて言いながら旨そうに煙を吐いている。
「で。どうなんだい、山の連中は?」
「雪は止んでいるらしい。どちらにせよ、あと一時間だ」
ふーん、と呟きながら紫煙を上に吹き上げる。
「アンタ、見つかると思う?」
「わからん。ちょっと厳しいんじゃないかな…」
正直に今の現況を口にすると、
「バーカ。上に立つヤツがそんなんじゃ駄目だろーが。アンタが信じなきゃ下も動かねーぞ」
流石、元不良集団を束ねただけの大器だ。
「…ハハハ、その通りだ。ちょっと尻引っ叩いてくるかな」
「そーしろそーしろ。このドS野郎! ギャハ」
それ…… いるか、彼氏に対して…