第37話 大切にされたければ、簡単にやらせてはいけません
文字数 1,907文字
重なった唇が電極となって背筋に甘い電流が流れこむ。
唇を合わせたまま、ウルフは喉の奥で低くうなった。彼も感じている。そうと思うと、体の芯が熱を生み出した。おなかの奥で竜巻が起こる。
二度と味わうことができないと思っていた。
力強く差し入れられた彼の舌を吸い、両腕を回して彼の岩のように大きな背中にしがみついた。
ウルフはわたしの尻に手をあてて、ぐっと引き寄せた。硬いものがわたしの下腹を突いてくる。
ウルフの手のひらで胸を包み込まれたときにはもうなにも考えられなくなっていた。
「この部屋、おまえの匂いがして……たまらない」唇が離れた合間に熱い息とともにささやくように言う。
わたしはまた彼に唇を押しつけて言葉に封をした。二枚の熱い舌を一枚に溶け合わせるように絡め合い、蜂蜜のように蕩ける唾液を交換する。
一秒たりとも離れたくない。
あわさった胸板から感じる脈動と布越しに感じる性器の熱さがまるで二人の引力の強さを表しているようだ。
彼はニットの上から円を描くように、わたしの胸の先端を手のひらでなでた。
「リリィ……おまえが欲しい」離さないとばかりに背中に腕を回しているわたしをそっと押しのけ、ウルフは困ったようにささやく。
わたしはうなずいた。わたしも、あなたがほしい。
「でも、おれは……女を愛せない」そういうウルフの声は苦し気だ。
「それでもいい」
どうしてそんなことを言ってしまったのか、あとで後悔するとわかっていたら言わなかったのに、そのときのわたしは何も考えられなくなっていた。この瞬間のことしか考えられなかった。愛なんて、どうでもいい。前言撤回。愛なんて、どうでもいいのよ。彼の言うとおり、愛なんてただのきれいごと。いまはただ、目の前にある狂おしいほどの欲望から解放されたかった。
わたしたちは抱き合ったままベッドに倒れ込んだ。普段はひとりで眠るには広いと思っていたシングルベッドが、小さく頼りなく軋んだ音を立てる。
ウルフは口づけを続けながら、わたしのスカートをまくりあげた。
そして、彼は性急にベルトを外してスラックスとトランクスをあわせて引き下ろし、わたしは力のはいらない手でタイツを引き下ろした。
それから、彼はまたわたしに唇を重ねてきて、大きな膝でわたしの脚を開かせた。そして、勢いよくショーツを引き下げる。ラ・ぺルラの淡くきらめくレースのショーツの端が破れ、頼りなげに片足にひっかかって揺れた。
周囲にふたりの甘く熱した性器の香りが漂う。南国の白い花のようでもあり、湿地に生きる動物のムスクのようでもある。
ふたりとも、洋服を着ているのに、性器だけを露出した格好になった。
ウルフが覆いかぶさってきて、熱くうずく入口にぬるり、と硬くてあたたかいものが触れたと思ったら、ぐっと彼の体重がのしかかり、体の中心に彼が入ってくるのを感じた。中心から裂けるような痛みと燃えるような炎に包み込まれる。
ウルフは低くうめいた。
頭を上げ、片手で自分の体を支えて、わたしを突き上げた。
彼はいったん少し抜いて、ふたたび突き上げた。今度はもっと深くまで中に入ってきた。腹の奥に火かき棒をねじ込まれてたような灼熱の痛みと同時に、全身の細胞が恍惚感で細かくふるえる。
再度突かれて、わたしの喉の奥から声が叫び声が出た。痛かった。きつくて焼けるようだ。けれど、何ていう満足感だろう。まるでウルフという重石に組み敷かれて地面に平たく伸ばされているような感覚で、一ミリも抵抗できない。体が喜びにがたがたと震える。
ウルフは歯をくいしばり、また力強く突いた。
二人の骨盤がぶつかり、体の中心で火花がはじけ、思考が吹っ飛んだ。
ウルフが目をぎゅっと閉じて後ろに頭をのけぞらせ、叫んでいるのが見えた。彼の首の腱がくっきりと浮き出し、汗で光っていた。遠くでわたしが叫んだ声も聞こえた。
すこし気を失っていたのかもしれない。
彼がいきなりわたしの体から自身を引き抜いた感覚で、わたしは真っ白い世界から現実に呼び戻された。足のあいだをあたたかい粘液が流れ落ちていく。
目を開けると、彼は逃げるようにベッドから床に飛び降りていた。
「くそっ」
両手を握りしめ、悪態を吐き、悔し気に眉をしかめている。乱れた黒髪の隙間からみえる額は汗で光っていた。
ベッドの上に寝そべったままのわたしには目もくれず、ウルフは床をにらみつけている。そのフローリングの床の上には何もない。
そして、まるで汚らわしいことをしたかのように。自分を呪うように、彼は、ちくしょうと呟く。悔しくてたまらないという表情だ。
彼はわたしを抱いたことを後悔しているのだ。
唇を合わせたまま、ウルフは喉の奥で低くうなった。彼も感じている。そうと思うと、体の芯が熱を生み出した。おなかの奥で竜巻が起こる。
二度と味わうことができないと思っていた。
力強く差し入れられた彼の舌を吸い、両腕を回して彼の岩のように大きな背中にしがみついた。
ウルフはわたしの尻に手をあてて、ぐっと引き寄せた。硬いものがわたしの下腹を突いてくる。
ウルフの手のひらで胸を包み込まれたときにはもうなにも考えられなくなっていた。
「この部屋、おまえの匂いがして……たまらない」唇が離れた合間に熱い息とともにささやくように言う。
わたしはまた彼に唇を押しつけて言葉に封をした。二枚の熱い舌を一枚に溶け合わせるように絡め合い、蜂蜜のように蕩ける唾液を交換する。
一秒たりとも離れたくない。
あわさった胸板から感じる脈動と布越しに感じる性器の熱さがまるで二人の引力の強さを表しているようだ。
彼はニットの上から円を描くように、わたしの胸の先端を手のひらでなでた。
「リリィ……おまえが欲しい」離さないとばかりに背中に腕を回しているわたしをそっと押しのけ、ウルフは困ったようにささやく。
わたしはうなずいた。わたしも、あなたがほしい。
「でも、おれは……女を愛せない」そういうウルフの声は苦し気だ。
「それでもいい」
どうしてそんなことを言ってしまったのか、あとで後悔するとわかっていたら言わなかったのに、そのときのわたしは何も考えられなくなっていた。この瞬間のことしか考えられなかった。愛なんて、どうでもいい。前言撤回。愛なんて、どうでもいいのよ。彼の言うとおり、愛なんてただのきれいごと。いまはただ、目の前にある狂おしいほどの欲望から解放されたかった。
わたしたちは抱き合ったままベッドに倒れ込んだ。普段はひとりで眠るには広いと思っていたシングルベッドが、小さく頼りなく軋んだ音を立てる。
ウルフは口づけを続けながら、わたしのスカートをまくりあげた。
そして、彼は性急にベルトを外してスラックスとトランクスをあわせて引き下ろし、わたしは力のはいらない手でタイツを引き下ろした。
それから、彼はまたわたしに唇を重ねてきて、大きな膝でわたしの脚を開かせた。そして、勢いよくショーツを引き下げる。ラ・ぺルラの淡くきらめくレースのショーツの端が破れ、頼りなげに片足にひっかかって揺れた。
周囲にふたりの甘く熱した性器の香りが漂う。南国の白い花のようでもあり、湿地に生きる動物のムスクのようでもある。
ふたりとも、洋服を着ているのに、性器だけを露出した格好になった。
ウルフが覆いかぶさってきて、熱くうずく入口にぬるり、と硬くてあたたかいものが触れたと思ったら、ぐっと彼の体重がのしかかり、体の中心に彼が入ってくるのを感じた。中心から裂けるような痛みと燃えるような炎に包み込まれる。
ウルフは低くうめいた。
頭を上げ、片手で自分の体を支えて、わたしを突き上げた。
彼はいったん少し抜いて、ふたたび突き上げた。今度はもっと深くまで中に入ってきた。腹の奥に火かき棒をねじ込まれてたような灼熱の痛みと同時に、全身の細胞が恍惚感で細かくふるえる。
再度突かれて、わたしの喉の奥から声が叫び声が出た。痛かった。きつくて焼けるようだ。けれど、何ていう満足感だろう。まるでウルフという重石に組み敷かれて地面に平たく伸ばされているような感覚で、一ミリも抵抗できない。体が喜びにがたがたと震える。
ウルフは歯をくいしばり、また力強く突いた。
二人の骨盤がぶつかり、体の中心で火花がはじけ、思考が吹っ飛んだ。
ウルフが目をぎゅっと閉じて後ろに頭をのけぞらせ、叫んでいるのが見えた。彼の首の腱がくっきりと浮き出し、汗で光っていた。遠くでわたしが叫んだ声も聞こえた。
すこし気を失っていたのかもしれない。
彼がいきなりわたしの体から自身を引き抜いた感覚で、わたしは真っ白い世界から現実に呼び戻された。足のあいだをあたたかい粘液が流れ落ちていく。
目を開けると、彼は逃げるようにベッドから床に飛び降りていた。
「くそっ」
両手を握りしめ、悪態を吐き、悔し気に眉をしかめている。乱れた黒髪の隙間からみえる額は汗で光っていた。
ベッドの上に寝そべったままのわたしには目もくれず、ウルフは床をにらみつけている。そのフローリングの床の上には何もない。
そして、まるで汚らわしいことをしたかのように。自分を呪うように、彼は、ちくしょうと呟く。悔しくてたまらないという表情だ。
彼はわたしを抱いたことを後悔しているのだ。