第9話 彼に大切にされたければ追わせなければいけません。

文字数 833文字

 男という生き物は、標的を見つけたら本能のスイッチが入って狩猟モード・戦闘モードに入り、体に尋常ではない力がみなぎる。そして、その標的があと一歩で手に入りそうなのに入らないときに、標的がもっとも輝いてみえる。もっとも価値があがるのだ。
 逆に標的が自分から「わたしを捕らえて!」と言って男に向かって突進してきたとしたら、標的はもはや標的ではなくなってかがやきを失い、むしろ敵になることもあり、男にとっての価値は下がるものだ。そして、自分にとって価値が低いものに対しては粗末に扱う。必要がなくなれば捨てる。それが男という生き物だ。

 本を貸す約束がキャンセルになってから三日が経ったが、その間、大学構内でウルフの姿を見かけることはなかった。午後の授業が終わって賑わうメインストリートを歩いていると、井戸端会議をしている女子たちの声が聞こえてきた。 
「ウルフ、見ないねー。どうしたんだろ?」
「メールしてみたけど、返信来なくってさー」
「そんなのいつものことじゃん? わたしもさっき一応ラインしてみたけど、既読無視だよ」
「ウルフはデフォルトが既読無視だからね。風邪ひいたとか?」
「まさかぁ。ウルフが風邪ひくわけないじゃん」
「たしかに。じゃあ、過去に振った女たちに復讐で刺されて寝込んでるとか?」
「それはありそう!あはは!」
 大学中の女性に心配されるような男。それがウルフ。
 だけど、ウルフの本当の姿を知っている人はいるのだろうか。
 わたしだって、本当の彼をまだ知らない。
 いつもおちゃらけて悪ぶってる彼の姿が印象的すぎて、本物のウルフの姿をまったく捉えられない。
 
 とらえどころのない男……。

 わたしまで既読無視されるのは癪だし、そもそもわたしは彼女たちとは違う。
 熟考に熟考を重ねた独自の溺愛法則を実践しているのだから、わたしは絶対にウルフに連絡しない。
 ウルフが連絡したいと思わなければ恋は育たないのだから。
 恋愛においては、女がこちらから積極的に動くメリットはないものだ。

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登場人物紹介

ウルフ 

男。大学三年生。リリィがひと目ぼれした相手。

リリィ 

女。大学四年生。このお話の主人公。

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