第27話 恋されたければ内なる獣を手懐けなくてはなりません
文字数 2,167文字
獣だ。獣がいる。
見たことがないけど、体の奥で感じる。
普段は人間の体の奥で静かに鳴りを潜めているけれど、恋をするとむっくりと起き上がって肢体を伸ばして活動し始める獣。
それが間違いなくわたしの体の奥に棲んでいる。そう思った瞬間だった。
ウルフとわたしは酸素を求めるかのように必死で唇を合わせながら、互いの手で互いの体をまさぐり合った。わたしのお腹の奥がぬるりと動く。子宮がずっしりと重くなり、そこからつながる膣の入口が燃えるように熱くなっている。
ウルフの手はわたしの背中を探り、ジャージ素材のワンピースの布地の上から器用に指でブラジャーのホックを外した。
わたしの手はウルフのトランクス越しにたくましい尻の筋肉を撫で、それからウエストのゴムをひっぱってトランクスを引き下げようとした。
真っ白いシーツで覆われたキングサイズのベッドの上で、しなやかな蔦のように絡み合いながら、さらに深く絡む方法を停止した脳みそを駆使して必死で模索していた。
唇を合わせるだけでは足りない。
舌を絡め合うだけでは足りない。
抱き合うだけでは足りない。
もっと深く合わさりたい。もっと熱がほしい。粘膜がほしい。股のあいだに、体の中心に、奥に、痛みがほしい。わたしは熱くうずく部分をウルフの股間に押しあてた。ウルフのそこは岩のように硬くなっていて、わたしの動きに同調するように力づよく押しつけてきた。衣服の布越しにも熱い鼓動が伝わってくる。
それは、ロマンチックなものとはほどとおい、動物じみた動作だった。事実、ウルフの喉の奥からは動物じみた低いうめき声が聞こえた。
わたしのウエスト部分を探っていたウルフの指がウエストからは侵入できないワンピースだと気づいて、スカートの裾を探り当ててまくり上げる。その拍子にわたしはウルフのトランクスを掴んで引き下げた。濃厚な男らしい麝香の香りが広がった。
それは自らすっくと立っていた。想像よりも大きくて、太くて、赤黒くて、つややかだった。
まるで生き物みたい。彼の股間に生えている食虫植物みたい。黒々とした毛の密林の中に生えるそれはなめらかな皮膚に覆われていて、生命力に満ちている。薄暗い室内の灯りに照らされて先端が微かにかがやいていた。
男性のそれを間近ではじめて見たわたしは、好奇心と欲望に高鳴る鼓動をおさえることができなかった。こんなに大きなものを迎え入れるのは痛いだろう。けれど、痛みがほしかった。ウルフを感じたかった。激しく。
わたしはそれに近づきたくて、ウルフの腰に乗り上げた。
そして、大きな息をついた。いや、ずっと息が上がっている。ウルフの息遣いも聞こえる。
「リリィ」
ウルフが喉の奥でうめくように言う。わたしを求めているのか、それとも拒んでいるのか、わからない。けれど、そんなことは関係なくて、わたしはウルフの腹にまたがり、彼の股間に生えているものに自分の股のあいだを押し付けた。すると、彼はまた声をもらした。
あと一枚。
わたしとウルフを阻むのはわたしの秘部を覆っている綿のショーツだけ。その奥でわたしの秘密の花園は蜜を垂らしてひくついていた。
こんな感覚は初めてだった。
乗っ取られている。理性が獣に乗っ取られている。そう思った。まるで意志が通じず勝手に肉体が動いて反応しているのだ。
けれど、それがとても自然で正しいことのようにも感じた。こうなることが正しいのだ、と。
ウルフもそうなのだろう。また低く呻いたあと、両手でわたしの尻に手をあてて、ぐっと引き寄せた。
布越しにふたりの性器がぶつかり、鈍い快感が体じゅうに広がる。ふたり同時にうめいた。
「ウルフ」
ウルフはわたしのショーツのゴムに手をかけた。その時、
ピピピピピピ……!!
隣の部屋から機械音が聞こえてきた。
ウルフは手を止めた。
そして、わたしたちの目が合う。ウルフの目は赤く充血していた。
ウルフにまたがったわたしとウルフは見つめ合ったまま、互いに呼吸を整えようとした。全速力で走ったあとのように息があがっていた。ウルフの白シャツに覆われた胸が上下する。隣の部屋ではまだ冷たい機械音が鳴り続けている。
「くそ……っ!」ウルフが悪態を吐き、こんなことダメだとか何かを小さくつぶやいた。
「なんの音? 携帯?」
ウルフの太ももに座っていたわたしの尻は、ウルフの両手で抱かれて軽々と脇に降ろされた。やわらかなシーツの上で尻の打撲が鈍く痛む。それと同時に、今夜の出来事が脳裏に再生されて呼び戻された。獣が引っ込んだ替わりに脳みそが働き始めたのだ。
ウルフは腹筋で起き上がってトランクスを引き上げ、「仕事だ」と言う。
「仕事?」
ベッドからするりと降りたウルフはドアに向かって歩きながら肩越しに振り向いた。その瞳は氷河のように冷たかった。
「会議があるからオフィスに行く。おまえは朝までここに泊ってけ。鍵はオートロックだから放っておけば勝手にかかる」
「……うん」
ウルフは速やかにドアを開けて足を踏み出す。
「待って……! わたしたち……」
「おれたちの間にはなにもない。二度と、おれに近づくな」
ウルフは振り向かずにそう言って出ていき、ドアが大きな音を立てて閉まった。
キングサイズのベッドの上にはぺたんこ座りをしたわたしひとりが取り残された。
見たことがないけど、体の奥で感じる。
普段は人間の体の奥で静かに鳴りを潜めているけれど、恋をするとむっくりと起き上がって肢体を伸ばして活動し始める獣。
それが間違いなくわたしの体の奥に棲んでいる。そう思った瞬間だった。
ウルフとわたしは酸素を求めるかのように必死で唇を合わせながら、互いの手で互いの体をまさぐり合った。わたしのお腹の奥がぬるりと動く。子宮がずっしりと重くなり、そこからつながる膣の入口が燃えるように熱くなっている。
ウルフの手はわたしの背中を探り、ジャージ素材のワンピースの布地の上から器用に指でブラジャーのホックを外した。
わたしの手はウルフのトランクス越しにたくましい尻の筋肉を撫で、それからウエストのゴムをひっぱってトランクスを引き下げようとした。
真っ白いシーツで覆われたキングサイズのベッドの上で、しなやかな蔦のように絡み合いながら、さらに深く絡む方法を停止した脳みそを駆使して必死で模索していた。
唇を合わせるだけでは足りない。
舌を絡め合うだけでは足りない。
抱き合うだけでは足りない。
もっと深く合わさりたい。もっと熱がほしい。粘膜がほしい。股のあいだに、体の中心に、奥に、痛みがほしい。わたしは熱くうずく部分をウルフの股間に押しあてた。ウルフのそこは岩のように硬くなっていて、わたしの動きに同調するように力づよく押しつけてきた。衣服の布越しにも熱い鼓動が伝わってくる。
それは、ロマンチックなものとはほどとおい、動物じみた動作だった。事実、ウルフの喉の奥からは動物じみた低いうめき声が聞こえた。
わたしのウエスト部分を探っていたウルフの指がウエストからは侵入できないワンピースだと気づいて、スカートの裾を探り当ててまくり上げる。その拍子にわたしはウルフのトランクスを掴んで引き下げた。濃厚な男らしい麝香の香りが広がった。
それは自らすっくと立っていた。想像よりも大きくて、太くて、赤黒くて、つややかだった。
まるで生き物みたい。彼の股間に生えている食虫植物みたい。黒々とした毛の密林の中に生えるそれはなめらかな皮膚に覆われていて、生命力に満ちている。薄暗い室内の灯りに照らされて先端が微かにかがやいていた。
男性のそれを間近ではじめて見たわたしは、好奇心と欲望に高鳴る鼓動をおさえることができなかった。こんなに大きなものを迎え入れるのは痛いだろう。けれど、痛みがほしかった。ウルフを感じたかった。激しく。
わたしはそれに近づきたくて、ウルフの腰に乗り上げた。
そして、大きな息をついた。いや、ずっと息が上がっている。ウルフの息遣いも聞こえる。
「リリィ」
ウルフが喉の奥でうめくように言う。わたしを求めているのか、それとも拒んでいるのか、わからない。けれど、そんなことは関係なくて、わたしはウルフの腹にまたがり、彼の股間に生えているものに自分の股のあいだを押し付けた。すると、彼はまた声をもらした。
あと一枚。
わたしとウルフを阻むのはわたしの秘部を覆っている綿のショーツだけ。その奥でわたしの秘密の花園は蜜を垂らしてひくついていた。
こんな感覚は初めてだった。
乗っ取られている。理性が獣に乗っ取られている。そう思った。まるで意志が通じず勝手に肉体が動いて反応しているのだ。
けれど、それがとても自然で正しいことのようにも感じた。こうなることが正しいのだ、と。
ウルフもそうなのだろう。また低く呻いたあと、両手でわたしの尻に手をあてて、ぐっと引き寄せた。
布越しにふたりの性器がぶつかり、鈍い快感が体じゅうに広がる。ふたり同時にうめいた。
「ウルフ」
ウルフはわたしのショーツのゴムに手をかけた。その時、
ピピピピピピ……!!
隣の部屋から機械音が聞こえてきた。
ウルフは手を止めた。
そして、わたしたちの目が合う。ウルフの目は赤く充血していた。
ウルフにまたがったわたしとウルフは見つめ合ったまま、互いに呼吸を整えようとした。全速力で走ったあとのように息があがっていた。ウルフの白シャツに覆われた胸が上下する。隣の部屋ではまだ冷たい機械音が鳴り続けている。
「くそ……っ!」ウルフが悪態を吐き、こんなことダメだとか何かを小さくつぶやいた。
「なんの音? 携帯?」
ウルフの太ももに座っていたわたしの尻は、ウルフの両手で抱かれて軽々と脇に降ろされた。やわらかなシーツの上で尻の打撲が鈍く痛む。それと同時に、今夜の出来事が脳裏に再生されて呼び戻された。獣が引っ込んだ替わりに脳みそが働き始めたのだ。
ウルフは腹筋で起き上がってトランクスを引き上げ、「仕事だ」と言う。
「仕事?」
ベッドからするりと降りたウルフはドアに向かって歩きながら肩越しに振り向いた。その瞳は氷河のように冷たかった。
「会議があるからオフィスに行く。おまえは朝までここに泊ってけ。鍵はオートロックだから放っておけば勝手にかかる」
「……うん」
ウルフは速やかにドアを開けて足を踏み出す。
「待って……! わたしたち……」
「おれたちの間にはなにもない。二度と、おれに近づくな」
ウルフは振り向かずにそう言って出ていき、ドアが大きな音を立てて閉まった。
キングサイズのベッドの上にはぺたんこ座りをしたわたしひとりが取り残された。