第30話 恋は生き物。恋は犬。恋は猫。

文字数 827文字

 恋って子犬みたいなものだと思う。犬が好きだからそう思ってしまうだけなのかもしれないけれど、走り回っている子犬に似ていると思うのだ。それとも猫でもいい。そういえば猫のほうがもっと似ているかもしれない。
 追いかければ逃げてしまう。捕まえようとするとするりと腕の中をすり抜けて逃げていく元気な子猫は、追いかければ追いかけるほどに勢いよく遠くに走り去っていく。こんなところにあったのかと驚かされるような柱の横などに細い隙間を見つけて部屋から飛び出し、いつの間にかどこに行ったのかわからなくなる。飼い主には思いつかないようなところへ行ってしまうのだ。そうなってしまったら、飼い主がいくら探しても見つからない。まるでブラックホールの中に落ちてしまったかのように、もしくはこの世に存在していなかったかのように、忽然と姿を消してしまうのだ。
 消えてしまった猫。
 飼い主は放心状態になる。それから、悲しむ。そして、怒る。どうしていなくなっちゃったのよ……!! ありとあらゆる感情を逆なでして消えたその猫はきっと世界のどこかで気持ちよさそうに寝そべって昼寝でもしているのだろう。そして、こちらがすっかりと猫に関心を失くした頃に戻ってきて、足元にすり寄ってくるものだ。
 それが、恋。
 追えば逃げる。さらに掴もうとすれば、脱兎のごとく逃げ出して姿を消してしまう。そういうものだ。
 恋というものはきっと魂をもった動物のような生き物で、それは自主性をもっていて、自由を愛している。
 だから、恋を成就させたければ、けっして追ってはならない。掴もうとしてはならない。相手が引き気味なときに振り向かせようと躍起になってはいけない。こちらから告白するなんて、もってのほか。そんな行為は、せっかく彼の中に芽生えた恋の芽を踏み潰すようなものなのだ。
 『自分から告白してはいけません!』
 また失敗しちゃった……。
 わたしは静かに手帳を閉じて枕元に置き、ベッドサイドの灯りを消して目を閉じた。

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登場人物紹介

ウルフ 

男。大学三年生。リリィがひと目ぼれした相手。

リリィ 

女。大学四年生。このお話の主人公。

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