第3話 第2章
文字数 1,994文字
花粉の季節が始まっている。故に彼女は平気だろうかと心配しながら月曜日を迎える。直子は日勤で既に家を出ている。空は雲一つない快晴だ。気温もこの季節としては暖かい。
僕は眠気が出ない花粉用の鼻炎薬を飲み、さりげなく服をチョイスして家を出る。
八時四十五分ごろに彼女のマンション近くに車を停め、その旨をメールする。
返事がこないまま、九時が過ぎる。そのまま十分ほど待ちそろそろ再メールをしようかという時に帽子、サングラス、マスクのどう見ても芸能人にしか見えない出で立ちでスッと助手席に乗って来る。
二人きりになるのは一年ぶり。待ちに待った瞬間だ。僕はお久しぶり、と言おうと口を開きかけるも…
「ねえ、駄目じゃないこんな目立つところでっ」
いきなりの叱責! 口がポカンと開いてしまう。
「いやいやいや。逆にすごく目立ってるよその格好!」
「いいから、早く車出して。信号待ちの先頭にはならないようにね。」
「りょ、了解…」
「それと、なるべく早く高速に乗って。まさかETCじゃないよね?」
「え… そう、だけど…」
「はあ〜 早く抜き取って!」
「え? あれ? 何処だっけ? えっと…」
「ここじゃない? ほら。抜くよっ」
全く表情が読めない彼女がカードを差し出す。
「俺くん、全然ダメ。こんなんじゃデート出来ないっ」
「ご、ごめん…」
「ETCの明細奥さんに見られたらどうするのよ。カードもダメ。現金…ある?」
「ご、ごめん… ちょっと下ろしてくるよ…」
「それも〜 前もって下ろしておく! その日に下ろしたら絶対怪しいでしょ!」
あああ、この感覚! 一年前と何も変わらない! あまりの嬉しさに目尻に涙が溜まってしまう。
用賀ICから東名高速に入っても彼女の説教は延々と続く。家でも陸に対してこんな感じでネチネチやっているのかな、なんて思うとつい微笑んでしまう
「…から、家の近くに停める時は… 何が可笑しいのよ?」
「いや、ごめん。家でもこんな感じなの? 陸や旦那に対して。」
「もっと怒鳴りつけてるよ。そっちの方がいいの?」
「今度にしておくよ。あ! ほら、富士山!」
厚木に近づくと正面にクッキリと富士山が見えてくる。高速に乗りやっと帽子とマスクは外した彼女は、サングラス越しに富士を眺めながらポツリと呟く。
「久し振り。」
「そうだね、お久しぶり。元気だった?」
「違うよ」
「え? 何が?」
「ドライヴ。」
僕がではなく、ドライブが久しぶり… いや徹底しているなあ、その天然ぶり。
「え? ドライブ位しょっちゅうしているでしょ…」
「違う。彼氏の車の助手席のドライヴ。」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい……
そ、そ、そ、それはあまりに、時間軸がズレすぎた発言ではないかと…
彼氏? 俺が? いつから? 君の? ?が僕の頭の周りをグルグル周回し、それが落ち着く頃には車は厚木を通り越していた。
「旦那とは? ドライブしないの?」
「してない。」
「そっか。」
「そっちは?」
「…偶に。」
「そう。」
「でもあの人はしている、別の女の人と…」
「嘘、だろ…?」
「嘘。」
「…おい…」
「俺くん、素直すぎ。そんなんじゃすぐ騙されちゃうよ!」
「え? まきちゃん僕のこと騙すつもり?」
「彼氏を騙してどうするのよ。意味わからない。」
彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏…… 何十回も僕の頭の中を木霊する。
「あの、僕たち、付き合っていたんだっけ?」
彼女はハアという顔で、
「今更、何言っているの?」
それっきり彼女は口を閉ざし景色を眺めている。
全く知らなかった、僕とまきちゃんが付き合っていただなんて! やはり彼女の常識は僕からしたら異星レベルだ。この地球上で、一年間彼氏をほっぽらかしにする彼女がいるであろうか、いやいる筈がない。そんな話聞いたこともないし、小説や漫画でも読んだことがない。
いや待てよ。間違っているのは僕の方なのか? 彼女の方が普通なのか? 誰かに相談したい、と言っても一体誰に…
厚木から小田原厚木道路に入り小田原に抜けようとすると、
「ねえ、海沿いの道なかったっけ?」
と言うので仕方なく二宮ICで降り、ちょっと下道を走り西湘バイパスに入る。真っ青な海が左手に広がり、沖の方はうっすらと霞みがかった大気が春の陽気で眩しい程に感じられ、春の訪れを教えてくれている。
まきちゃんは髪をかき分けながら西湘の海をじっと眺めている。
「ねえ。これFM?」
「そうだけど」
「CDとか、スマホに入れているのとか、何か音楽ないの?」
「あー、あるけど子供用とか僕の好きな音楽しかないよ。」
「俺くん何を聞くの?」
「洋楽なら八十年代かな。邦楽ならサザンとかミスチルとか… まきちゃんは?」
「んー、色々何でも。でもFMは無いよね…」
「ごめん… 次は用意しておくから」
「こういう所が慣れてなくて、好きよ。」
「え…」
瞬く間に赤面するのを感じる。
僕は眠気が出ない花粉用の鼻炎薬を飲み、さりげなく服をチョイスして家を出る。
八時四十五分ごろに彼女のマンション近くに車を停め、その旨をメールする。
返事がこないまま、九時が過ぎる。そのまま十分ほど待ちそろそろ再メールをしようかという時に帽子、サングラス、マスクのどう見ても芸能人にしか見えない出で立ちでスッと助手席に乗って来る。
二人きりになるのは一年ぶり。待ちに待った瞬間だ。僕はお久しぶり、と言おうと口を開きかけるも…
「ねえ、駄目じゃないこんな目立つところでっ」
いきなりの叱責! 口がポカンと開いてしまう。
「いやいやいや。逆にすごく目立ってるよその格好!」
「いいから、早く車出して。信号待ちの先頭にはならないようにね。」
「りょ、了解…」
「それと、なるべく早く高速に乗って。まさかETCじゃないよね?」
「え… そう、だけど…」
「はあ〜 早く抜き取って!」
「え? あれ? 何処だっけ? えっと…」
「ここじゃない? ほら。抜くよっ」
全く表情が読めない彼女がカードを差し出す。
「俺くん、全然ダメ。こんなんじゃデート出来ないっ」
「ご、ごめん…」
「ETCの明細奥さんに見られたらどうするのよ。カードもダメ。現金…ある?」
「ご、ごめん… ちょっと下ろしてくるよ…」
「それも〜 前もって下ろしておく! その日に下ろしたら絶対怪しいでしょ!」
あああ、この感覚! 一年前と何も変わらない! あまりの嬉しさに目尻に涙が溜まってしまう。
用賀ICから東名高速に入っても彼女の説教は延々と続く。家でも陸に対してこんな感じでネチネチやっているのかな、なんて思うとつい微笑んでしまう
「…から、家の近くに停める時は… 何が可笑しいのよ?」
「いや、ごめん。家でもこんな感じなの? 陸や旦那に対して。」
「もっと怒鳴りつけてるよ。そっちの方がいいの?」
「今度にしておくよ。あ! ほら、富士山!」
厚木に近づくと正面にクッキリと富士山が見えてくる。高速に乗りやっと帽子とマスクは外した彼女は、サングラス越しに富士を眺めながらポツリと呟く。
「久し振り。」
「そうだね、お久しぶり。元気だった?」
「違うよ」
「え? 何が?」
「ドライヴ。」
僕がではなく、ドライブが久しぶり… いや徹底しているなあ、その天然ぶり。
「え? ドライブ位しょっちゅうしているでしょ…」
「違う。彼氏の車の助手席のドライヴ。」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい……
そ、そ、そ、それはあまりに、時間軸がズレすぎた発言ではないかと…
彼氏? 俺が? いつから? 君の? ?が僕の頭の周りをグルグル周回し、それが落ち着く頃には車は厚木を通り越していた。
「旦那とは? ドライブしないの?」
「してない。」
「そっか。」
「そっちは?」
「…偶に。」
「そう。」
「でもあの人はしている、別の女の人と…」
「嘘、だろ…?」
「嘘。」
「…おい…」
「俺くん、素直すぎ。そんなんじゃすぐ騙されちゃうよ!」
「え? まきちゃん僕のこと騙すつもり?」
「彼氏を騙してどうするのよ。意味わからない。」
彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏…… 何十回も僕の頭の中を木霊する。
「あの、僕たち、付き合っていたんだっけ?」
彼女はハアという顔で、
「今更、何言っているの?」
それっきり彼女は口を閉ざし景色を眺めている。
全く知らなかった、僕とまきちゃんが付き合っていただなんて! やはり彼女の常識は僕からしたら異星レベルだ。この地球上で、一年間彼氏をほっぽらかしにする彼女がいるであろうか、いやいる筈がない。そんな話聞いたこともないし、小説や漫画でも読んだことがない。
いや待てよ。間違っているのは僕の方なのか? 彼女の方が普通なのか? 誰かに相談したい、と言っても一体誰に…
厚木から小田原厚木道路に入り小田原に抜けようとすると、
「ねえ、海沿いの道なかったっけ?」
と言うので仕方なく二宮ICで降り、ちょっと下道を走り西湘バイパスに入る。真っ青な海が左手に広がり、沖の方はうっすらと霞みがかった大気が春の陽気で眩しい程に感じられ、春の訪れを教えてくれている。
まきちゃんは髪をかき分けながら西湘の海をじっと眺めている。
「ねえ。これFM?」
「そうだけど」
「CDとか、スマホに入れているのとか、何か音楽ないの?」
「あー、あるけど子供用とか僕の好きな音楽しかないよ。」
「俺くん何を聞くの?」
「洋楽なら八十年代かな。邦楽ならサザンとかミスチルとか… まきちゃんは?」
「んー、色々何でも。でもFMは無いよね…」
「ごめん… 次は用意しておくから」
「こういう所が慣れてなくて、好きよ。」
「え…」
瞬く間に赤面するのを感じる。