第6話 第2章

文字数 905文字

 そうなのだ。高校の野球部の後輩の山岸が一昨年、今静岡の河奈高校で監督してるのだが、異動で他校に行くため、野球部を指導できる信頼できる人を探しているのですが、青木さん今湯河原住みですよね、面倒見てやってくれませんか、と連絡してきた。

 初めは激しく断ったのだが、
「塁のヤツ、来年高等部ですよね。頑張れば甲子園で直接対決っすよ。」
 さすが教師歴三十年。異動先では校長になる男だ。説得のツボを心得ている。
「生徒の親たちが騒いじゃって。あの大作家、青木マサシが息子達に野球を教えてくれる! ねえ、頼みますよ」

 ハア。どうしようか、割と真剣に悩んでいると、
「河奈高校って、あの河奈カントリーの近くじゃない? それならさ、朝ラウンドして午後から高校で教えてあげえれば? 私、待っててあげるよー」

 妻の一言で即決。

 山岸が電話先で泣きながら何度も何度も喜んでくれた。その涙の訳は、初めて河奈高校野球部を見学するために、その年の夏休みにグランドに立った瞬間、知った。

 野球部員、五名。金髪二名、茶髪二名、スキンヘッド一名。なにこれ、ルーキーズ? スクールウォーズ? 残念ながら僕は空手の有段者でも元日本代表ラガーマンでもないのだが…
 山岸… あの野郎… 俺にこんな負の遺産を残して行きやがって…

「ハア? 誰このオッさん?」
「山ハゲ(山岸)のパイセン(先輩)とかいうヤツだろ、作家だか何だか知んねーけど」
「あー、俺ら練習とかいいから、試合だけなー 何かと忙しいしー」
 さすがに腹が立ち、ムッとした顔をしていると、
「あれー、オッさん、キレてね?」
「ハア? 俺らにキレるって、なにそれ」
「おら、なんか言えやジジイ、殺すぞ」
 五人にグルリと囲まれる。ベンチで呆れ顔で眺めている妻に危害が行かないよう、何とかしなければならない、のだが…
「なんか言えっつーの、おらっ」
 金髪Aが僕の尻に蹴りを入れる。周りの四人が囃し立てる。調子に乗った金髪Aは拳を握りしめ、ボクシングのファイティングポーズを取る。これは、ヤバい。袋叩きにされてしまう…

 その時。
「ねえー、俺くーん。梅の木坂のあかねちゃんから、ラインきてるよおー」

 五人の動きが停止する。
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