第3話 第10章
文字数 1,266文字
「と言う訳で、最近付き合い始めたの。」
「へーーー まーちゃんが! 信じられないわー」
亮太がタバコを咥えたままポカンとした顔で呟く。
「まー、色々あったけど、結婚して落ち着いたと思ってたんだけどなー」
「そうなんだよね。まさか、こうなるとは思いもしなかった…」
それはこっちのセリフだよ、亮太は心の中で叫んでいた。雨の降る夜の山下公園のベンチで手首から血を流して泣いていた彼女を病院に連れて行って以来、彼は彼女の僕として生きてきた。彼女の願う事なら、と当時付き合っていた彼女とも別れた。
急に海が見たいと電話してくれば仕事を早引けして彼女を海に連れて行った。育児に疲れたから温泉に入りたいと言われれば、貯金を切り崩して最高級の日帰り温泉宿を予約した。
元彼に性的に酷い目に遭わされたと聞かされたので、例えそのチャンスが目の前にあっても昂ぶる気持ちを必死で抑え彼女をこれ以上傷つけまい、と自分を押し殺した。
その類い希な容姿と気まぐれな性格に亮太は身も心も奪われ、それを自分のモノにするよりもそれを失う恐怖に怯え今日まで彼女に仕えてきた。
だが。
「旦那とはー上手く行ってんでしょ?」
「まあね。」
「バレない?」
「あの人は私の言う事何でも信じるから。私が何しても大丈夫。」
ある意味彼女の夫は俺と同格なのだ、亮太はそう思っていた。大変なお嬢様育ちなのでとても亮太が彼女を伴侶にする事は叶わなかったが、資産家の息子で大企業に勤める今の夫は彼と同様に彼女の僕なのだーその幾つになっても信じられない美しさ、そしてめまぐるしく変わる捉え所のない性格の虜なのだ。
だが。
最近の彼女の様子は未だかつて見たことのない感じなのだ。言葉では言い表せないがーちょっとした仕草、ふとした時の表情がまるで初恋に身を焦がす少女の様なのだ。
「そいつ、どんな奴なの?」
旦那に対するのとは全く違う嫉妬心に我を忘れかけ、思わず亮太は聞いていた。
「それがさあ、わかんないんだよね…」
遠くをみながらまるで初恋の相手を語る様に、亮太の心は更に掻き乱されていく。
「ハア?」
「前から知っている様なー 一緒に居るとすごく落ち着いてー んー、魂と魂の出逢い、って感じなのかなー」
「全然わかんねーよ」
なんだよ、魂と魂の出逢いって? スピリチュアル? んなもんこの世に存在する訳ねえだろ。第一、そーゆーのを最も毛嫌いしてたの、お前だろうが…
このままでは彼女は俺から間違いなく離れて行く。そして二度と俺の前に現れることは無くなるだろう。
ちょっと待てよ、それはねえだろう… お前を助けたのは俺だ、お前をどん底から救ったのは誰でもねえ、この俺なんだ!
野球のコーチだか作家だか、何してっか分からねえ奴に彼女を掻っ攫われてたまるもんか!
この女は俺のもんだ。これまでも、これからも、ずっとずっと俺のものなんだ!
今までは彼女を傷つけないように、誠心誠意尽くしてきた。てめえの命よりも大事に扱ってきた。でも、二度と俺の元に戻ってこないのなら…
亮太は心の奥底に仄暗い感情が生まれた事を認識した。
「へーーー まーちゃんが! 信じられないわー」
亮太がタバコを咥えたままポカンとした顔で呟く。
「まー、色々あったけど、結婚して落ち着いたと思ってたんだけどなー」
「そうなんだよね。まさか、こうなるとは思いもしなかった…」
それはこっちのセリフだよ、亮太は心の中で叫んでいた。雨の降る夜の山下公園のベンチで手首から血を流して泣いていた彼女を病院に連れて行って以来、彼は彼女の僕として生きてきた。彼女の願う事なら、と当時付き合っていた彼女とも別れた。
急に海が見たいと電話してくれば仕事を早引けして彼女を海に連れて行った。育児に疲れたから温泉に入りたいと言われれば、貯金を切り崩して最高級の日帰り温泉宿を予約した。
元彼に性的に酷い目に遭わされたと聞かされたので、例えそのチャンスが目の前にあっても昂ぶる気持ちを必死で抑え彼女をこれ以上傷つけまい、と自分を押し殺した。
その類い希な容姿と気まぐれな性格に亮太は身も心も奪われ、それを自分のモノにするよりもそれを失う恐怖に怯え今日まで彼女に仕えてきた。
だが。
「旦那とはー上手く行ってんでしょ?」
「まあね。」
「バレない?」
「あの人は私の言う事何でも信じるから。私が何しても大丈夫。」
ある意味彼女の夫は俺と同格なのだ、亮太はそう思っていた。大変なお嬢様育ちなのでとても亮太が彼女を伴侶にする事は叶わなかったが、資産家の息子で大企業に勤める今の夫は彼と同様に彼女の僕なのだーその幾つになっても信じられない美しさ、そしてめまぐるしく変わる捉え所のない性格の虜なのだ。
だが。
最近の彼女の様子は未だかつて見たことのない感じなのだ。言葉では言い表せないがーちょっとした仕草、ふとした時の表情がまるで初恋に身を焦がす少女の様なのだ。
「そいつ、どんな奴なの?」
旦那に対するのとは全く違う嫉妬心に我を忘れかけ、思わず亮太は聞いていた。
「それがさあ、わかんないんだよね…」
遠くをみながらまるで初恋の相手を語る様に、亮太の心は更に掻き乱されていく。
「ハア?」
「前から知っている様なー 一緒に居るとすごく落ち着いてー んー、魂と魂の出逢い、って感じなのかなー」
「全然わかんねーよ」
なんだよ、魂と魂の出逢いって? スピリチュアル? んなもんこの世に存在する訳ねえだろ。第一、そーゆーのを最も毛嫌いしてたの、お前だろうが…
このままでは彼女は俺から間違いなく離れて行く。そして二度と俺の前に現れることは無くなるだろう。
ちょっと待てよ、それはねえだろう… お前を助けたのは俺だ、お前をどん底から救ったのは誰でもねえ、この俺なんだ!
野球のコーチだか作家だか、何してっか分からねえ奴に彼女を掻っ攫われてたまるもんか!
この女は俺のもんだ。これまでも、これからも、ずっとずっと俺のものなんだ!
今までは彼女を傷つけないように、誠心誠意尽くしてきた。てめえの命よりも大事に扱ってきた。でも、二度と俺の元に戻ってこないのなら…
亮太は心の奥底に仄暗い感情が生まれた事を認識した。