第5話 第1章

文字数 823文字

 僕は大きな病院の前にいる。

 この病院にまきちゃんが交通事故で運び込まれたのだ。今頃手術をしているはずだ。僕は病院に入っていく。すれ違う人に「田中さんの手術はどうなりましたか?」と聞くと、「今手術中ですよ」と答えてくれる。
 僕は病院内を彷徨い、すれ違う看護師さんに「田中さんはどうなりました?」と聞くと「もうすぐ手術は終わりますよ」と教えてくれる。「ああ、ご主人がさっき来ましたよ」とも教えてくれる。

 手術早く終わらないかな、と口にしながら僕は歩く。
 すれ違う医師に「田中さんの手術、もう終わりますよね」と聞くと「明後日には終わるらしいですよ」と笑って答えてくれる。「それなら安心ですね」と僕も笑い返し、軽く頭を下げ歩き始める。

 館内放送が流れる。
『田中さんをお待ちの青木さん、青木マサシさん。至急出版社にお戻りください』

 ああそうだ、原稿を持っていかなくては。
 僕は慌てて病院の出口に向かう。病院を出る。外は快晴で河津桜が綺麗に咲いている。立ち止まり、なんて綺麗なんだろうと歎息する。あれ、まきちゃんがいない。そうだ、交通事故で病院に運び込まれたらしい。

 振り返ると大きな病院がある。

 僕は大きな病院の前にいる。この病院にまきちゃんが運び込まれたのだ。今頃手術を…

 館内放送が流れる
『田中さんをお待ちの青木さん、青木さーん、青木さーーーん…』

 僕は大きな病院の前にいる。この病院にまきちゃんが運び込まれたのだ。今頃手術を…

 館内放送が流れる
『田中さんをお待ちの青木さん、青木さん、おーい、青木さーん…』

 うるさいな。そんなに何度も呼ばなくてもいいじゃないか。恥ずかしいな。ちょっと文句の一つでも言ってやろうかな。

 重たい目蓋を仕方ないから少し開けてやれ。
 不意に、白い光が少し開いた目蓋に入ってくる。

「青木さん、青木さん、わかりますか? 青木さん?」
 わかってるって。原稿届けなきゃいけないんでしょ?
 
「先生っ 青木さん、意識戻りましたーー!」
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