第4話 第3章

文字数 1,415文字

「すごいじゃんマサくん! 毎週雑誌に記事が載るなんて! 貴和ちゃん、ホントありがとうねー」
「そうなの。月イチで、と企画会議に出したんだけどね、あの『青木マサシ』なら是非週イチでって、役員が鶴の一声! 先生のファンだったらしいですよその役員」
「それは嬉しいな、有難う貴和子さん。」
「これも先生の実力の賜物ですよ。ね、直ちゃん。」
「これも貴和ちゃんのお陰だね。マサくん、もっとちゃんとお礼しないと。」
「いいのいいの。それよりね、直ちゃん。実は先月…」

 貴和子が僕をチラリと見ながら直子に話しかける。胃と腸が締め付けられる
「神保町に美味しいイタ飯屋さん出来たんだよっ」
「行く行く! 平日大歓迎!」
 直子にわからないようにそっと息を吐く
「先生も一緒に、如何ですか?」
「ハハ、女子会には参加しません。二人で楽しんで来なよ。」
「あはは、ごめんねえマサくん。女子会でね、貴和ちゃん。」
「そうだね。先生最近、取材でお忙しいですし。」
「そう、最近良く家出てるね。浮気でもしてるんじゃないのマサくん?」

 十二指腸を抓られたような痛みで額に脂汗を感じる
「そう。浮気浮気。あ! そろそろ塁の迎えに行ってくるわー」
「もうそんな時間? じゃあ私もお暇しますね。ごめんね直ちゃん、いきなりお邪魔しちゃって。それじゃ先生、すみませんが駅まで…」
「ごめんね貴和ちゃん、忙しいのに遅くまで引き留めちゃって。これからもこの人の事ヨロシクねー」

「先生。ちょっと車を停めてください。」
 貴和子が冷たく低い声で呟く。ハンドルを握る手汗を感じ取りながら、近くのスーパーマーケットの駐車場に停車する。

「あんないい子を裏切って。」
 貴和子がタバコに火をつけ、窓を開けて煙を外に吹き出す。
「いやだから、あの女性とはそんな関係じゃ…」
「あの子だったら貴方を任せられると思ったから、結婚を許したのに…」
「そんな… ホント違うって、浮気とかじゃないって、ただの友達…」
「と、こんな事するんだ?」
 会社の封筒を僕に放り投げる。慌てて中を改めると…
「渋滞の湾岸線でキスしちゃうんだ、ただの友達と?」
 その写真を見て息が止まる。全身の毛穴から汗がジュバっと噴き出す。
 一体いつ? 誰が? 
 僕と彼女が運転席で抱き合い口付けしている、かなり鮮明な写真に呆然とする。

「私言いましたよね。お茶くらいなら大目に見るって。」
 僕は震える手で写真を見ながらカクカク頷く。
「これ。完全に日帰りデートの帰り、ですよね?」
 同じ動作を繰り返す。
「挙句の果てに、キス、ですか。それもこれ、相当熱烈なやつですよ」
 貴和子が僕の手を握り、
「私とはベッドの中でしかしないのに、人前でしちゃうんだ?」
 脂汗が止まらない。目に入り視界がボヤける。
「私とは、二十年も付き合ってきた私とは、ショッピングなんて行ったこ……」
 不意に貴和子が声を詰まらせる。みるみるうちに細い目から涙が溢れ出してくる。
「貴和子、僕は…」
 嗚咽する貴和子を僕は呆然と眺めながら、かける言葉を探るが、何一つ出てこなかった。

 塁の迎えの時間があるので、泣き続ける貴和子を横に僕は車を駅まで走らせる。
「駅、着いたけど…」
 ハンドタオルで涙を拭いながら、
「この写真の人と、付き合ってるんだよ、ね?」
 ボソッと貴和子が呟く。僕は何も言わず大きな溜息を吐く。
「ま、それは直ちゃんが判断することかな。」
「は?」

「この封筒、さっき貴方の家にもう一通置いてきたから。」
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