第3話 第12章

文字数 1,192文字

『アイフォーンを探す』を起動させる。
 彼女のアップルIDとパスワードを入力する。彼女がスマホに替えた時、そのセッティングは全て俺がやってやった。だから彼女が何処にいるかすぐにわかる。

 今まではこんな事はあまりしなかった。彼女が本当にスマホを無くした時に何度かこの機能を利用し、見つけ出してやった。大概は家の中や車の中だったんだが。
 俺のスマホに東京湾アクアラインが表示される。カーナビに海ほたるをセットし車を発進させる。彼女の車に仕込んだGPSは自宅のままだ。彼女は今、他人の車で行動している。他人の車で…
今日は本当はB M Wの中古を欲しがっている山崎さんに何台か見せる日だった。免許を取り立ての息子に買ってやると言う話で、久しぶりに大金をゲットできそうだったのだ。

 だがまーちゃんが今日は木更津のアウトレットに行くと聞いてピンと来た。絶対そいつと行くに違いないと。
 だから泣く泣く山崎さんに連絡をし、日にちをずらしてもらおうとしたらブチギレられて、二度と俺のとこでは買わないと電話を切られてしまった。

 益々、そいつのことが許せない、この落とし前は必ずつけるからな。
 そんな事より。
 俺の腕の中で安らかな鼾を立てている彼女の寝顔を思い出す。口を近づけては離す事を何度繰り返しただろう。震える手を何度胸に近づけては離したであろう。
 彼女の匂いが不意に思い出される。高級な香水の香り、高貴な彼女の匂い。一度だけ彼女が風呂に入っている間、彼女の下着を手に取ったことがある。抑えることができずに下着を顔に押し当て、胸いっぱいにその匂いを嗅いだ。トイレに駆け込み、込み上げる欲望を一滴残さずトイレに流した。
 今となっては屈辱でしかない、どうしてこの俺が、元横浜を仕切っていた半グレの幹部だった俺が、女には全く不自由したことのない俺が、人妻の下着に顔を埋め悶々としていたのか。

 あの時、男としての誇りをかけてまーちゃんに指一本触れなかった事を今は激しく後悔している。もしその男さえ現れなければ、一生後悔することはなかったであろう。
 誰だ、彼女を鷲掴みにし荒々しくモノにしようとしている奴は…
 許せない。絶対認めない。

 もしも本当にそうなったのなら、もしもまーちゃんがその男に身を任せたなら、もしもその男がまーちゃんを悶えさせたなら…
 そいつを海に沈め、まーちゃんを滅茶苦茶にし、一緒に死のう。
 そいつはすぐには死なせない。両手両足をへし折り、動けなくしてからその目の前でまーちゃんをいたぶり尽くしてやる。そいつが泣き叫ぶ姿を存分にまーちゃんに見せつけてやる。
 それから顔が分からなくなるまで殴りつけてやる。そのまま殴り殺すのも有りだ。鎖を巻き付けて大黒埠頭に放り込んでやる。
 その後に、まーちゃんの首を絞め、最後に一回、そして… 俺も首を括って…

 今から俺がお前の顔を拝んでやる。待ってやがれ。
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