第4話 第8章

文字数 1,596文字

 食事の会計を済ませ時計を見ると八時半である。雑誌で読んだ、行ってみたいバーがあると彼女が言うのでタクシーに乗る。完徹で炎天下取材をし過分に酒を飲み満腹になり… どうやら僕はタクシーの中で大鼾をかいていたらしい。
「俺くん、ここまで突き抜けられると、却って愛おしいよ」
 いや目が笑ってないよと言うと、
「私一人で行くからこのままホテル帰る?」
 と真顔で言われ一気に目が醒める。

 タクシーを降り彼女がスマホのマップを見ながら着いた所は、一見京風の家屋でとてもバーがあるとは思えない。小さな灯りしかない薄暗い細い路地を通り抜け家屋に入ると突如立派なカウンターがあり、高そうなスコッチやリキュールがその裏に所狭しと並んでいる。
 彼女はオススメのカクテルを次々に空けていく。僕は山崎の水割りをチビリチビリやる。
いつの間にかカウンターに突っ伏して寝ていた様だ… 時計を見ると十一時である。彼女はバーテンダーや隣の客との会話に弾んでいた様だ。
 会計を済ませタクシーを呼んでもらう。料金は二度見してしまう程の額だったが今回は取材中なので助かった。二人で飲んでこれだけの料金… どれだけ単価が高かったのか、それとも彼女がどれだけ…

 部屋に戻ると今度は僕に先にシャワーを使えと言うのでフラフラになりながら頭からシャワーを浴び、身体をちゃんと洗ったかも定かでなくー早々に浴室を出てベットに突っ伏したー処までは覚えているが、すぐに意識を失い…

 恨めしそうな貴和子が目の前にいる。僕は何か言おうとするが喉から声が出ない。貴和子がゆっくりと近づいて来る。僕は身体が動かない。貴和子がスーパーのビニール袋を僕の頭から被せる。 徐々に息が苦しくなってくる。言葉が出せない。息が出来ない。息が…

「やっと起きた。」
 彼女が僕の鼻をつまんでいた。
「鼾、うるさくて寝れない!」
 バスローブの胸元がきつく閉じられている。
「私が寝るまで起きていて!」
 苦笑いしてしまう。
「灯消してねー寝顔見ないでよ。」
「いいじゃん、それぐらい」
「シワとか見られたくない」
「全然無いじゃん。」
「いいからー」

 彼女は僕に背を向ける。僕は顔を彼女の後ろ髪に近付けそっと匂いを嗅ぐ。
「匂い嗅がないで!」
「ハイハイ」
 左腕をそっと彼女の首の下に充てがう。彼女は無言でそれを受け入れる。
「俺くん… 腕太い」
「そうかな」
「何これ、堅い… 筋肉なの?」
「野球やってたからね。」
「今も鍛えているの?」
「まあ、ボチボチ」
 それから彼女は僕の腕をゆっくりと摩る。身体は相変わらず向こうを向いたまま。

「さっきからスマホ何度も鳴っていたよ」
「え…」
「あの女からじゃない?」
 僕が身体を起こそうとすると
「出ないで!」
 と言って身体をこちらに向ける。彼女の顔が僕の胸の前にある。上目遣いで僕を見上げ、
「絶対出ないで。」

 その表情が余りに切なく、僕の理性が一気に失われる。
 右手を彼女の背中に回す。細い、細過ぎる。ゆっくりと僕の胸に彼女を押し当てる。彼女の頭頂に顔を埋める。彼女の匂いが胸を満たし興奮が僕を包み込んでいく。

 彼女の額に僕の額を合わせる。鼻と鼻が触れ合う。唇が重なり合う。最初は躊躇いがちに、徐々に大胆に舌が絡まっていく。
 彼女が溜息を洩す。彼女のバスローブを強引に剥ぎ取る。僕もバスローブを脱ぎ捨てる。彼女の胸に顔を埋める。彼女が僕の頭を抱え込む。僕の頭が下に下がっていくに従い彼女の切ない声が大きくなっていく。

 彼女の茂みに顔を埋める。彼女の両脚を肩に載せる。そのまま何度も何度も彼女は果てる。
 
 僕は抑えきれない衝動を彼女に埋め込む。
 
 先程とは違う仕草で彼女は果てる。僕も堪え切れず果ててしまう。
 
 衝動は収まらず、律動は止まらない。
 薄明かりに照らされた彼女の顔は恍惚としている。
 
 唇を合わせる。互いに求め合い、僕と彼女は再度果てる。
 
 それでも僕の衝動は……
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