見えた糸口
文字数 1,207文字
いつものカフェに寄り、いつものサンドイッチをテイクアウトする。
タクシーに乗って移動し、最寄り駅のそばにあるコンビニで降りる。
寝静まった住宅街を、サンドウィッチが入った袋を揺らしながら歩いた。オートロック付きの真新しいマンションに入っていく。
部屋は1LDK。律にとっては広すぎる。
玄関は靴が乱雑に並んでいた。物を買う性格ではないはずなのに、なぜか廊下が散らかっている。洗濯物も追いつかない。
帰るたびになんとかしなきゃと思いつつ、この日は額の痛みを言い訳にして、リビングに直行した。
とてもじゃないが、これで女性を招待なんてできやしない。
リビングの中央に置かれたソファに、どかりと座る。三角座りをして、パックに入ったサンドイッチを食べ始めた。
うつろな目で、一口ずつゆっくりと食べ進めていく。ぶりかえす額の痛みを感じつつ、ジャケットから黒いスマホを取りだした。
サンドウィッチ片手に、もう片手でスマホを操作する。
画面に映し出されているのは、メッセージアプリのトーク欄だ。さまざまな女性からメッセージが届いている。
店には来ないがデートの誘いをしてくる女性。店に来る日時を伝えてきた女性。たわいのない日常会話を送ってくる女性。店に来たのに律がいないから帰ったという報告をしてきた女性。
そのすべてに、返事を送る。続けて、店でトラブルが起きてケガをしたことを伝えた。大体が心配するような返信をしてくるため、相手に合わせて、次の来店につながるように返していく。
――『ありがとう、心配してくれて。ちょっと疲れてるみたい。エリちゃんの顔が見たいな……』――
一人一人丁寧に、無表情で打ち込んだ。どれだけ優しい言葉だろうと来店の約束だろうと、女性たちのメッセージで律の心が救われることはない。
ふと、もう一つの白いスマホが、胸元で震えた。黒いスマホをソファの座面に置き、白いスマホを新たに取り出す。
メッセージアプリを開くと、新しいメッセージがトーク欄に表示されていた。
『お疲れ様です。先日の会議でもらった資料を預かっています。出席してなかったようなので……』
律の瞳が、鈍く光った。メッセージアプリを閉じる。
食べかけのサンドイッチを容器に置いて、電話をかけた。
「ああ、俺。うん、大丈夫だよ。……あ、そう? さすが部長、デキる男だよあんたは。……あ、いや、別のことを頼もうとしてたんだ」
「今、
電話を切り、スマホを座面に放る。
仕事のツケは、仕事で取り返す。律にクヨクヨしている暇はない。
黒いスマホを手に取り、再びメッセージアプリを開いた。サンドウィッチをちみちみと食べ進めながら、文字を打ち込んでいく。