第36話 指揮官の敗北
文字数 642文字
もはやドルイドの存在など意に介さぬように、凛とした声が桟橋に響き渡る。
「この船には罪人などおらぬ。確たる証拠もなしに、武装した軍隊が他国の船に踏み込むなど許されぬ!」
毅然と言い放ち、阿梨は意味ありげに接岸している船腹に視線を移す。
つられてそちらを見たドルイドは愕然 とした。いつの間にか大砲が街の方角へと狙いを定められている。
勇駿は口もとに満足気な微笑を浮かべた。先刻、父に頼んでおいた通り、実に効果的な演出だ。
阿梨は腰に差していた剣をすらりと抜き、眼下の軍隊に突きつけた。
「どうしてもと仰せなら、押し通るがよい。だが、その時にはわれら水軍と一戦交える覚悟がおありかな !?」
一歩も退 かぬ気概をこめた台詞にドルイドは唇を噛んだ。甘く見すぎていた。羅紗 水軍と、それを率いる長 を。
異国の船といえど、王家の権威と武力をちらつかせば、すんなり乗り込めるだろうと考えていたのだ。
窮地に陥った指揮官に阿梨は追い打ちをかけるように、
「このまま軍を引かれればよし、さもなければ──」
ドルイドはきつく拳を握りしめた。戦闘など断じてできない。コンテッサの港を人質にとられたようなものだ。街に被害が及べば自分にも処罰が下されるだろう。リシャールの逮捕どころではない。
彼の敗北だった。屈辱に満ちた苦々しい言葉が口をついて出た。
「……王宮警護隊はこの場から退却せよ」
しかし、と反論しかける副官をさえぎって、
「聞こえなかったか? コンテッサを戦場にするわけにはゆかぬ。全軍直 ちに撤退せよ!」
「この船には罪人などおらぬ。確たる証拠もなしに、武装した軍隊が他国の船に踏み込むなど許されぬ!」
毅然と言い放ち、阿梨は意味ありげに接岸している船腹に視線を移す。
つられてそちらを見たドルイドは
勇駿は口もとに満足気な微笑を浮かべた。先刻、父に頼んでおいた通り、実に効果的な演出だ。
阿梨は腰に差していた剣をすらりと抜き、眼下の軍隊に突きつけた。
「どうしてもと仰せなら、押し通るがよい。だが、その時にはわれら水軍と一戦交える覚悟がおありかな !?」
一歩も
異国の船といえど、王家の権威と武力をちらつかせば、すんなり乗り込めるだろうと考えていたのだ。
窮地に陥った指揮官に阿梨は追い打ちをかけるように、
「このまま軍を引かれればよし、さもなければ──」
ドルイドはきつく拳を握りしめた。戦闘など断じてできない。コンテッサの港を人質にとられたようなものだ。街に被害が及べば自分にも処罰が下されるだろう。リシャールの逮捕どころではない。
彼の敗北だった。屈辱に満ちた苦々しい言葉が口をついて出た。
「……王宮警護隊はこの場から退却せよ」
しかし、と反論しかける副官をさえぎって、
「聞こえなかったか? コンテッサを戦場にするわけにはゆかぬ。全軍