第5話 金貨の袋
文字数 647文字
始まりそうになるお説教を、さり気なくそらそうとする。
「それより、じいからもお礼を言っておくれ。彼らが助けてくれたんだ」
ほう、と声を上げると、じいと呼ばれた老人──アストア伯は顎に手をやって梨華と勇利を眺め回した。
異国の者で、二人とも何とも奇妙ないでたちをしている。立襟のあっさりした上着と脚衣。きちんとした外衣も身につけていない。
特に娘の方は、一緒にいる若者と色だけ違う服装で、あとは全く同じ。ドレスも着ておらず、まるで男のような身なりだ。
「そなたたち、リシャールさまをよくぞ守ってくれた。わしからも礼を申す」
どういたしまして、と答える梨華の手に、懐から何やら小さな布袋を取り出して渡す。
袋は小さいがずっしりと重い。
「なあに、これ」
梨華が袋の口を開けると、中にはぎっしり金貨が詰まっていた。
「若を救ってくれた褒美じゃ。取っておくがよい」
尊大な口調に梨華はあからさまに眉をしかめ、袋を突き返した。
「いらないわよ。こんなもの」
眼鏡の奥でアストア伯の眼が驚いたように見開かれる。
「別にお金が欲しくて助けたわけじゃなし、ひ弱そうなお坊ちゃんが男たちに取り囲まれていて可哀想だから手を貸しただけ」
そしてリシャールに視線を向けて、
「あなた、もっと体鍛えた方がいいわよ。今のままじゃ子供にだって負けそう」
「な、な、なんと──!」
一瞬、アストア伯は絶句し、怒気をはらんだ声で、
「この無礼者! このお方を誰と心得る !? 恐れ多くもガンディア王国の第一王子リシャール殿下であらせられるぞ!」
「それより、じいからもお礼を言っておくれ。彼らが助けてくれたんだ」
ほう、と声を上げると、じいと呼ばれた老人──アストア伯は顎に手をやって梨華と勇利を眺め回した。
異国の者で、二人とも何とも奇妙ないでたちをしている。立襟のあっさりした上着と脚衣。きちんとした外衣も身につけていない。
特に娘の方は、一緒にいる若者と色だけ違う服装で、あとは全く同じ。ドレスも着ておらず、まるで男のような身なりだ。
「そなたたち、リシャールさまをよくぞ守ってくれた。わしからも礼を申す」
どういたしまして、と答える梨華の手に、懐から何やら小さな布袋を取り出して渡す。
袋は小さいがずっしりと重い。
「なあに、これ」
梨華が袋の口を開けると、中にはぎっしり金貨が詰まっていた。
「若を救ってくれた褒美じゃ。取っておくがよい」
尊大な口調に梨華はあからさまに眉をしかめ、袋を突き返した。
「いらないわよ。こんなもの」
眼鏡の奥でアストア伯の眼が驚いたように見開かれる。
「別にお金が欲しくて助けたわけじゃなし、ひ弱そうなお坊ちゃんが男たちに取り囲まれていて可哀想だから手を貸しただけ」
そしてリシャールに視線を向けて、
「あなた、もっと体鍛えた方がいいわよ。今のままじゃ子供にだって負けそう」
「な、な、なんと──!」
一瞬、アストア伯は絶句し、怒気をはらんだ声で、
「この無礼者! このお方を誰と心得る !? 恐れ多くもガンディア王国の第一王子リシャール殿下であらせられるぞ!」