第7話 人助けに免じて
文字数 760文字
息を切らせてようやく水軍の旗艦にたどり着くと、甲板では妹の梨奈が身を乗り出して二人の帰りを待っていた。
梨奈は九才。背中まで伸ばした髪に大きなリボンを結び、梨華の見立てたピンク色の可愛らしいドレスを着ている。
「梨華姉さま! 勇利兄さま!」
二人を呼びながら、大きく手を振っている。
梨華は渡し板を駆け上りながら、飛びついてくる妹を受けとめた。
「遅かったのね。心配したんだから」
「ごめんねー、梨奈」
謝りながら、頬をふくらませる妹を、梨華はぎゅっと抱きしめる。
「夕食の時刻はとっくに過ぎているぞ。時間厳守だと言っておいたはずだが」
梨奈の背後から聞こえる女性にしてはやや低めの声は、母の阿梨 のものだ。
長い髪を高めの位置でひとつに結び、すらりとした長身に黒の立襟の長めの上着と脚衣をまとう阿梨は水軍の長 である。梨華のような大きな娘がいるとは思えないほど若々しく、凛として美しい。
「二人が帰ってくるまで梨奈は夕食も取らずに待っていたのだよ」
「ごめんなさい、母さま。ちょっと人助けしてたら時間くってしまったのよ。ねっ、兄さま?」
いきなり話を振られて勇利は焦りつつも、
「まあ、確かに人助けといえば人助けだね。たちの悪い連中にからまれていた王子さまを助けたんだ」
王子さま? と母は怪訝そうに訊き返す。
「後からやって来た、じいって人がそう言ってた。ガンディア王国の第一王子だって」
「それはまあ大仰な……。で、そのからんでいた連中を梨華が叩きのめしたというわけか」
「うん、結果としては」
やれやれ、と母は苦笑とも失笑ともつかない笑みを洩らす。
「では、人助けに免じて夕食抜きは勘弁してやろう。三人とも早く食卓につきなさい。おじいさまと父さまが待ちかねているぞ」
はーい、と妹と手をつないで梨華は船の通路を軽快な足取りで歩き出した。
梨奈は九才。背中まで伸ばした髪に大きなリボンを結び、梨華の見立てたピンク色の可愛らしいドレスを着ている。
「梨華姉さま! 勇利兄さま!」
二人を呼びながら、大きく手を振っている。
梨華は渡し板を駆け上りながら、飛びついてくる妹を受けとめた。
「遅かったのね。心配したんだから」
「ごめんねー、梨奈」
謝りながら、頬をふくらませる妹を、梨華はぎゅっと抱きしめる。
「夕食の時刻はとっくに過ぎているぞ。時間厳守だと言っておいたはずだが」
梨奈の背後から聞こえる女性にしてはやや低めの声は、母の
長い髪を高めの位置でひとつに結び、すらりとした長身に黒の立襟の長めの上着と脚衣をまとう阿梨は水軍の
「二人が帰ってくるまで梨奈は夕食も取らずに待っていたのだよ」
「ごめんなさい、母さま。ちょっと人助けしてたら時間くってしまったのよ。ねっ、兄さま?」
いきなり話を振られて勇利は焦りつつも、
「まあ、確かに人助けといえば人助けだね。たちの悪い連中にからまれていた王子さまを助けたんだ」
王子さま? と母は怪訝そうに訊き返す。
「後からやって来た、じいって人がそう言ってた。ガンディア王国の第一王子だって」
「それはまあ大仰な……。で、そのからんでいた連中を梨華が叩きのめしたというわけか」
「うん、結果としては」
やれやれ、と母は苦笑とも失笑ともつかない笑みを洩らす。
「では、人助けに免じて夕食抜きは勘弁してやろう。三人とも早く食卓につきなさい。おじいさまと父さまが待ちかねているぞ」
はーい、と妹と手をつないで梨華は船の通路を軽快な足取りで歩き出した。