第12話 真紅の薔薇
文字数 701文字
彼は梨華の姿を見つけると、馬上から呼びかけた。
「レディ梨華!」
梨華は周囲を見回し、それからようやく自分のことだと気づいた。レディなどと呼ばれたのは生まれて初めてだ。
「そちらへ行ってもよろしいでしょうか」
船の規律でむやみに他人は乗せられない。この旗艦の責任者である母の方を向くと、くすくす笑いながら、
「どうぞ、と言っておやり。お供の兵までは困るがな」
許可を得て、梨華は甲板から返答する。
「いいわよ。ひとりで上がってきて!」
彼は優雅に一礼すると馬を降り、従者に預けておいた花束を受け取った。兵長らしき者が心配そうに言葉をかけるが、彼は笑って肩を叩くだけだ。
「さて、応接室を片づけてお茶の仕度をしなくては」
彼が渡し板に足をかけると、母は、この場を仕切るように、ぱん、と手を打った。
「義父 上、勇駿、勇利、梨奈、行くぞ。彼は梨華の客だ。家族がしゃしゃり出るのは野暮というものだよ」
踵を返し、家族をうながして船室の方へ戻っていく。
やがて彼は甲板に立つ梨華の前まで来ると、真紅の薔薇の花束を差し出した。
「昨日は難儀していたところをありがとうございました。じいの失礼は心からお詫びします。どうぞ、これを」
「はあ……」
梨華は眼をぱちくりさせながら大きな花束を受け取った。レディと呼ばれたのも初めてなら、花束など贈られたのも初めてだ。
その頃になると噂は船中に広がり、
──梨華嬢さまにガンディアの王子が会いに来たそうだ!
──嬢さま、何かしでかしたのか !?
──もしお咎 めなどあるようなら、一戦交えてでも嬢さまを守らなくては!
多少のことには動じない水軍の者も、一大事とばかり、我先 にと集まって来る。
「レディ梨華!」
梨華は周囲を見回し、それからようやく自分のことだと気づいた。レディなどと呼ばれたのは生まれて初めてだ。
「そちらへ行ってもよろしいでしょうか」
船の規律でむやみに他人は乗せられない。この旗艦の責任者である母の方を向くと、くすくす笑いながら、
「どうぞ、と言っておやり。お供の兵までは困るがな」
許可を得て、梨華は甲板から返答する。
「いいわよ。ひとりで上がってきて!」
彼は優雅に一礼すると馬を降り、従者に預けておいた花束を受け取った。兵長らしき者が心配そうに言葉をかけるが、彼は笑って肩を叩くだけだ。
「さて、応接室を片づけてお茶の仕度をしなくては」
彼が渡し板に足をかけると、母は、この場を仕切るように、ぱん、と手を打った。
「
踵を返し、家族をうながして船室の方へ戻っていく。
やがて彼は甲板に立つ梨華の前まで来ると、真紅の薔薇の花束を差し出した。
「昨日は難儀していたところをありがとうございました。じいの失礼は心からお詫びします。どうぞ、これを」
「はあ……」
梨華は眼をぱちくりさせながら大きな花束を受け取った。レディと呼ばれたのも初めてなら、花束など贈られたのも初めてだ。
その頃になると噂は船中に広がり、
──梨華嬢さまにガンディアの王子が会いに来たそうだ!
──嬢さま、何かしでかしたのか !?
──もしお
多少のことには動じない水軍の者も、一大事とばかり、