第20話 王妃クリスティナ

文字数 561文字

 晴れ渡った空の下、コンテッサの丘の上にそびえるガンディアの王宮。非常時には要塞ともなる堅固な石造りの城だ。
 王妃の執務室で、クリスティナは声に(にじ)む苛立ちを隠そうともせず、問いかけた。
「リシャールは? 姿が見えませんが、どこに行ったのです?」
 そばに控えていた侍従がおずおずと、
「今日もまた例の所かと」
「王子としての責務も放り出して、また異国の娘とやらのところですか」
 クリスティナは手にしていた書類を机にばさりと置き、大きく嘆息した。リシャールと同じ金髪碧眼で、高貴さを感じさせる美しい女性だ。だが、二人は実の親子ではない。リシャールの母である前王妃アンリエッタは他界しており、彼女は継母という立場になる。
 国王は病で伏せって長い。実質的には国政はほとんど王妃が取り仕切っているので、第一王子といってもリシャールにはやることもないのだが。
「母上」
 開け放ったドアの方から、少年の声が聞こえた。やって来たのはリシャールの異母弟に当たるアレンだ。今年で十四歳になる。
「あまりお顔の色が(すぐ)れないようですが、お疲れなのではありませんか」
 クリスティナは表情を和ませ、微笑を息子に向ける。
「大丈夫ですよ、心配してくれてありがとう」
 なら良いのですが、とアレンは微笑み返して用件を告げた。
「父上がお呼びです。大切な話があるそうです」




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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