第32話 王宮の軍隊
文字数 678文字
部屋の中で小競り合いが始まった。剣と剣がぶつかりあう合間をぬってアストア伯はリシャールの腕を取り、王宮の通路を走り出した。
門まで来ると、見張りの衛兵たちがふさいでいた。アストア伯は剣を抜き、構えた。
「老いたりといえども、このマルベック・アストア、まだまだ若い者には負けはせぬ!」
「じい!」
「リシャールさま、お早く!」
通路の奥から追手の姿が見えた。この機を逃したら脱出は不可能だろう。
「わたしは迷いましたが、じいの言 に従う決心をしました。彼の気持ちに応え、己の無実を証明するために」
リシャールが話し終わっても、誰も言葉を発さなかった。毎日花束をかかえてやって来ては姉妹と楽し気にお茶をしていた呑気な王子さまに、そんな異変が起きていたとは。
リシャールは世継ぎの第一王子だ。その彼に殺人の嫌疑とは、国を揺るがす陰謀である。
人々の沈黙を破ったのは、甲板から息を切らせて駆けてきた水軍の者の声だった。
「長 、大変でございます!」
「どうした?」
リシャールのかたわらに膝をついていた阿梨がすっと立ち上がる。
「王宮から武装した軍隊が大勢来ています。罪人を引き渡せと……」
リシャールは息を呑んだ。もう追手が迫ってきたとは。
「梨華、ごめん……。行くあてがなくて、ついこの船にころがり込んでしまったけれど、ここに来てはいけなかったんだ」
疲労で鉛のように重い体を動かし、長椅子から身を起そうとする。
「どうする気 !?」
「出ていくよ。君たちを巻き込むわけにはいかない」
「だめよ! 今、出ていったら、あなた、逮捕されちゃうわよ!」
返答は覚悟を決めた、かすかな笑み。
門まで来ると、見張りの衛兵たちがふさいでいた。アストア伯は剣を抜き、構えた。
「老いたりといえども、このマルベック・アストア、まだまだ若い者には負けはせぬ!」
「じい!」
「リシャールさま、お早く!」
通路の奥から追手の姿が見えた。この機を逃したら脱出は不可能だろう。
「わたしは迷いましたが、じいの
リシャールが話し終わっても、誰も言葉を発さなかった。毎日花束をかかえてやって来ては姉妹と楽し気にお茶をしていた呑気な王子さまに、そんな異変が起きていたとは。
リシャールは世継ぎの第一王子だ。その彼に殺人の嫌疑とは、国を揺るがす陰謀である。
人々の沈黙を破ったのは、甲板から息を切らせて駆けてきた水軍の者の声だった。
「
「どうした?」
リシャールのかたわらに膝をついていた阿梨がすっと立ち上がる。
「王宮から武装した軍隊が大勢来ています。罪人を引き渡せと……」
リシャールは息を呑んだ。もう追手が迫ってきたとは。
「梨華、ごめん……。行くあてがなくて、ついこの船にころがり込んでしまったけれど、ここに来てはいけなかったんだ」
疲労で鉛のように重い体を動かし、長椅子から身を起そうとする。
「どうする気 !?」
「出ていくよ。君たちを巻き込むわけにはいかない」
「だめよ! 今、出ていったら、あなた、逮捕されちゃうわよ!」
返答は覚悟を決めた、かすかな笑み。