第43話 思い出の場所

文字数 592文字

 街路樹の下、リシャールはじっと石造りの建物を見つめた。
 子供の頃、この別荘で三人で遊んだ。唯一の友ともいえるジュリオと、妹のように可愛かったエレナ。いつしか足は遠のいてしまったが、ここには幸せな思い出が刻みこまれている。
 束の間、追憶にひたるリシャールの頭を、いきなり梨華がぐいっと押さえつけた。
「な、何を !?
「隠れてっ」
 植え込みの陰から梨華が指差す先には、別荘に近づく人影。王宮の衛兵だ。
 全部で四人。そのうちの二人は門の前に立ち、あとの二人は中へと入っていく。
「ジュリオを探しに来たんだ」
 梨華は眉根を寄せる。
「急がなきゃ。もし彼がここにいたら、先を越されたら厄介だわ。裏門とかある?」
 あります、と答えるリシャールに、
「案内して。先回りするわよ」
 通りの裏側、門には鍵はかかっていなかった。中に入ると、敷地の木陰で梨華は突如、羽飾りのついた帽子をかなぐり捨てた。
「あーもう限界! こんなうっとうしい格好してられないわっ」
 叫ぶや否や、フリルのついたピンクのドレスを脱ぎ始める。
「り、梨華 !?
 赤面して明後日(あさって)の方を向くリシャールに、
「何赤くなってるのよ。ちゃんと下に着てるわよ」
 脱ぎ捨てたドレスの下は、いつもの立襟の赤の上着と動きやすい脚衣である。
「さ、早くジュリオを探さなきゃ」
 建物の裏口にも鍵はかかっていない。リシャールの先導で二人は廊下を急ぎ足で歩いていく。




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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