第3話 母譲りの才

文字数 716文字

 最初は相手にしようとしなかった男たちも、口の悪い小娘に言いたい放題言われて表情が険しくなってくる。
「怪我しないうちに早く家に帰りな。それともお嬢ちゃんがこいつに代わって金払ってくれるかい?」
 青年の方を顎でしゃくる男たちに、
「お金なんて持ってないわよ。たとえ持ってたって、あんたたちみたいなのに払うお金はびた一文ないわ」
「……小娘がずいぶんと言ってくれるじゃないか」
「梨華!」
 勇利があわてて駆け寄り、止めに入ろうとする。
「おまえも仲間か? 最後にもう一度だけ言うぞ。怪我したくなかったら金出してさっさと行っちまいな」
「それが……誠に申し訳ないんですが、本当にお金は持ってないんです」
 停泊している船から降りて、その辺を散歩したらすぐ戻るつもりだったので、梨華の言う通り、兄妹は文無しなのである。
「何だって !? おまえら、俺たちを馬鹿にしてるのか !?
 勇利は内心で大きくため息をついた。ここまで相手を怒らせてしまったら、もはや平和的解決は不可能だろう。
 腕には自信があるらしく、男たちがボキボキと指を鳴らす。
「恨むなら余計なお節介をした自分を恨みな!」
 叫ぶと同時に男のひとりが梨華につかみかかっていく。
 次の瞬間、男のみぞおちに梨華の強烈な蹴りが炸裂した。男は信じられないという風に眼を見開きながら、その場に崩れ落ちる。
 梨華は拳法の達人だ。拳法だけではなく、剣、弓、体術、あらゆる武術に秀でている。母譲りの才だ。
 それまではにやにやと笑って余裕をみせていた男たちの顔色が変わった。梨華を見る眼つきが真剣になる。
 勇利の背後にも男がひとり回り込んで襲いかかってくる。勇利はすっと身をかがめ、男の脇腹に的確な肘鉄(ひじてつ)をくらわす。




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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