第11話 王子さま来訪

文字数 732文字

 次の日、朝食を取った後、家族はそのまま食堂でくつろいでいた。
 追い風に恵まれ、船団は予定より早く港に到着している。今日一日は航海の疲れを癒し、積み荷を降ろすのは明日からでいい。
 他愛のない会話を楽しんでいたところへ飛び込んできたのは、席を外していた勇利である。
「梨華、来たよ! 本当に来た!」
「はあ?」 
 外を指差し、あわてふためく兄の言葉がさっぱり理解できない。
「来たって、何が来たの?」
「昨日の王子さまだよ!」
 梨華はこめかみに指を当てて記憶をたぐる。そういえば、あのナントカという王子さまは、もう一度会ってお礼が言いたいとか話していた。
 自分も確か、会いたかったら水軍の旗艦に来て、とか答えたような……。
「とにかく甲板に来てごらんよ。お供を大勢引き連れてやって来てるから」
 梨華は席を立ち、急いで甲板へ向かった。この事態に家族も興味深々で、ぞろぞろと梨華の後に続く。
 甲板に出て桟橋の方を見ると、梨華はあっけにとられて口を開けた。
 確かに昨日の金髪の青年を先頭に、ずらりと衛兵たちが背後に並んでいる。
「……梨華、何かやらかしたのか?」
 声をひそめ、たずねてくる母に、梨華は思いきり首を横に振る。
「何もしてないわよ。昨日話した通り、人助けしただけだってば!」
「白馬に乗った王子さまだわ……」
 姉の隣で梨奈がうっとりした声を出す。碧眼の整った顔立ちにかかる金髪。マントを羽織り、腰に剣を差している姿は、絵本で見た「王子さま」そのものだ。
「本当に王子さまだったのね……」
 昨夜は半信半疑で聞き流していた梨華は感心してつぶやいた。




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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