第40話 ジュリオの家

文字数 638文字

 かくして女装三人組のお出かけと相成ったのである。よもや見張りの兵も長い金髪をなびかせ、リボンのわんさかついたドレスをきた別嬪(べっぴん)さんがリシャールだとは(多分)気づくまい。
 勇利はといえば、当然女装などしたくなかったのだが、その方が怪しまれないだろうと梨華が主張したのである。おまけに勇利が行かなければ、代わりに梨奈が行くと言い出す始末。
 可愛い大切な末っ子を危険にさらすなど、とんでもない! 梨奈を危ない目にあわせるくらいなら、女装でも何でもして自分が行く方がはるかにマシというものだ。
 というわけで勇利は胸元に純白のレース飾りのついた、品のいい紫のドレスを着る羽目になったのである。
 梨華は兄のドレス姿を眺めると、おおよそ悪気のない微笑を投げてよこす。
「兄さまもその恰好、似合ってるわよ」
 それにしてもリシャールといい、兄といい、自分よりドレスが似合っているように見えるのは気のせいだろうか……。
 ちらりと頭をかすめた疑問はしまいこみ、梨華は真顔になった。
「で、どこへ行くの、リシャール」
「まずはジュリオの家に行ってみようかと。不在でも何か手掛かりがつかめるとよいのですが……」
 ジュリオの家はコンテッサの街でも貴族や裕福な商人の家が並ぶ地区にあった。彼の家は代々医者を輩出しており、王宮にも出入りしていた。リシャールも医師である父に連れられて宮廷に来たジュリオと知り合ったのだ。
 角の建物の陰からそっと様子をうかがうと、見張りの兵士が屋敷の門の前に立っている。


  女装・勇利



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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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