第34話 思いがけない展開

文字数 517文字

 阿梨は夫の方を向き、
「勇駿、一緒に来てくれ」
 ああ、と短く答え、勇駿は阿梨を守るように寄り添った。二人は一度自分たちの部屋に寄って剣を(たずさ)え、甲板へと歩いていく。
 思いがけない展開にあわてたのはリシャールである。美しく剛毅(ごうき)な梨華の母はいったい何を考えているのか。
「梨華、止めて! 相手は武装した正規軍だ。戦闘にでもなったら大変なことになる!」
 が、梨華は平然と、
「だーいじょうぶだって」
 動じる気配もなく、梨奈を連れて窓際に行くと、リシャールを手招きする。
「うちだってダテに世界中航海して回っているわけじゃないわ。寄港地では軍の反乱やら、市民の暴動やら、いろんな事件が起こるわよ。その度に母さまは水軍の船と皆を守ってきた。ほら、いらっしゃいよ。カーテンの陰から様子が見えるから」
 困惑するリシャールは言われるまま、姉妹の隣で船窓から外を窺う。
「姉さま……」 
 梨華は妹の頬に手を添え、安心させるように瞳をのぞきこんだ。
「心配しないで。今までもそうしてきたように、母さまは必ずこの状況を切り抜けてみせるわ。梨奈もよく知っているでしょ?」
 こくりとうなずく妹に、姉はわくわくした口調で、
「さあ、母さまがあの連中をどう追い払うか、楽しみね」




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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