第41話 口説かれた兄
文字数 782文字
ジュリオは監禁されているのだろうか。それとも戻ってきたところを捕えようと待ち構えているのだろうか。両方の可能性がある。
三人はしばらく屋敷と門の前に立つ兵士を眺めていたが、変化はない。
意を決して勇利が動いた。
「あの兵士に話を聞いてくるよ。二人はここで見ていて」
「気をつけてね、兄さま」
勇利はドレスの裾をつまみ、(転ばないように)しずしずと歩み寄っていく。
「あの……兵隊さん」
思い切り裏声で、おそるおそる話しかける。
「このお屋敷で何か事件でもありましたの?」
「何だ、おまえ」
兵士は怪訝そうに振り返ったが、そこに優美な娘の姿を認めて、たちまち顔を赤らめた。
「わたし、今日、この街についたばかりなんですの。叔母の家に滞在しています。それでお散歩していたら、兵隊さんの姿を見かけたものですから……」
めいっぱい高い声を出しているので、喉が痛い。
まだ若い兵士は眼の前の美しい娘にすっかり有頂天になり、
「実は俺たちもよく知らないんだ。王妃さまの命令でね。でもここに来た時には誰もいなかった。とりあえず屋敷だけ見張っているのさ」
梨華とリシャールは顔を見合わせた。ジュリオは家にはいないのだ。
しかも無人の屋敷を見張っているということは、王宮に捕らわれているわけでもないらしい。
「まあ、そうですの。お忙しいところをお邪魔してすみません」
情報は聞き出せた。その場を離れようとする勇利の手を兵士がつかむ。
「邪魔なんてことないぜ。あんた、可愛いな。どこから来たんだ? コンテッサの街は不慣れだろ。俺はあと少しで交代だ。案内してやるよ」
「え、でも、それでは申し訳ないですわ」
「遠慮するなって。料理の美味い店、教えてやるよ」
兵士は勇利の両手を握り、熱心に言い寄ってくる。
その様子を梨華は複雑な思いで眺めていた。何というか、女装して美人になった兄が男に口説かれている……。
三人はしばらく屋敷と門の前に立つ兵士を眺めていたが、変化はない。
意を決して勇利が動いた。
「あの兵士に話を聞いてくるよ。二人はここで見ていて」
「気をつけてね、兄さま」
勇利はドレスの裾をつまみ、(転ばないように)しずしずと歩み寄っていく。
「あの……兵隊さん」
思い切り裏声で、おそるおそる話しかける。
「このお屋敷で何か事件でもありましたの?」
「何だ、おまえ」
兵士は怪訝そうに振り返ったが、そこに優美な娘の姿を認めて、たちまち顔を赤らめた。
「わたし、今日、この街についたばかりなんですの。叔母の家に滞在しています。それでお散歩していたら、兵隊さんの姿を見かけたものですから……」
めいっぱい高い声を出しているので、喉が痛い。
まだ若い兵士は眼の前の美しい娘にすっかり有頂天になり、
「実は俺たちもよく知らないんだ。王妃さまの命令でね。でもここに来た時には誰もいなかった。とりあえず屋敷だけ見張っているのさ」
梨華とリシャールは顔を見合わせた。ジュリオは家にはいないのだ。
しかも無人の屋敷を見張っているということは、王宮に捕らわれているわけでもないらしい。
「まあ、そうですの。お忙しいところをお邪魔してすみません」
情報は聞き出せた。その場を離れようとする勇利の手を兵士がつかむ。
「邪魔なんてことないぜ。あんた、可愛いな。どこから来たんだ? コンテッサの街は不慣れだろ。俺はあと少しで交代だ。案内してやるよ」
「え、でも、それでは申し訳ないですわ」
「遠慮するなって。料理の美味い店、教えてやるよ」
兵士は勇利の両手を握り、熱心に言い寄ってくる。
その様子を梨華は複雑な思いで眺めていた。何というか、女装して美人になった兄が男に口説かれている……。