第16話 男たちの背中
文字数 608文字
リシャールは言葉も返せない。すんなりと受け入れてはもらえまいと思っていたが、こうも思い切り断られようとは。
──わたしとあなたさまでは身分が違います。とても結婚など……。
彼が考えていた理由はこんな類だったのだが、どうも違う。恐縮しているのではない。この娘は堂々と胸を張ってノーと答えているのだ。
「あたしは海の民よ。風を追い、自由に海原を往く生活が好きなの。陸 では、まして王宮なんて窮屈なところでは到底暮らせないわ」
極めて明快に説明すると、梨華は耳を澄ませた。扉の向こうで人の気配がする。それもひとりではなく複数だ。
向かいあって座っていた椅子から立ち上がる。不思議そうに梨華を見るリシャールに、しっ、と唇に指を当て、足音を忍ばせてドアへと歩いていく。
そうして勢いよく応接室の扉を開けると、祖父と父と兄が重なって倒れこんできた。
「三人とも何やってるのよ」
梨華の冷たい視線と声が彼らの上に降り注ぐ。
「あ、いや、その……」
「これは、つまり……」
「おじいさま、父さま、お、重いっ」
下敷きになっていた兄が悲鳴を上げ、祖父と父はあわてて身を起こす。
「来客中よ。盗み聞きなんてしないでちょうだい!」
梨華の剣幕に三人はそそくさとその場を離れていく。
「まったくもう、うちの連中ときたら……」
梨華が思い切り閉めるドアの向こうに退散する男たちの背中を眺めながら、礼儀正しい王子さまであるリシャールは茫然 と口を開けていた。
──わたしとあなたさまでは身分が違います。とても結婚など……。
彼が考えていた理由はこんな類だったのだが、どうも違う。恐縮しているのではない。この娘は堂々と胸を張ってノーと答えているのだ。
「あたしは海の民よ。風を追い、自由に海原を往く生活が好きなの。
極めて明快に説明すると、梨華は耳を澄ませた。扉の向こうで人の気配がする。それもひとりではなく複数だ。
向かいあって座っていた椅子から立ち上がる。不思議そうに梨華を見るリシャールに、しっ、と唇に指を当て、足音を忍ばせてドアへと歩いていく。
そうして勢いよく応接室の扉を開けると、祖父と父と兄が重なって倒れこんできた。
「三人とも何やってるのよ」
梨華の冷たい視線と声が彼らの上に降り注ぐ。
「あ、いや、その……」
「これは、つまり……」
「おじいさま、父さま、お、重いっ」
下敷きになっていた兄が悲鳴を上げ、祖父と父はあわてて身を起こす。
「来客中よ。盗み聞きなんてしないでちょうだい!」
梨華の剣幕に三人はそそくさとその場を離れていく。
「まったくもう、うちの連中ときたら……」
梨華が思い切り閉めるドアの向こうに退散する男たちの背中を眺めながら、礼儀正しい王子さまであるリシャールは