第15話 王子さまの思い込み

文字数 565文字

 あまりに唐突な申し出に、梨華はしばし唖然(あぜん)としてから、
「はああ~~~~~ !?
 と、()頓狂(とんきょう)な声を上げた。
「本気なの? あなたガンディアの王子さまでしょ。しかも第一王子! なのにどこの馬の骨ともわからない娘に、き、き、求婚するなんて!」
 顔を赤らめ、つっかえながら叫ぶ梨華に、リシャールがにっこり笑う。
「もちろん本気です。それに馬の骨だなど、とんでもない。失礼ながら入港している水軍について調べさせていただきました。あなたが仰っていたように、母君は羅紗(らしゃ)国の王女で、あなたご自身、国王の孫。羅紗は遠い東の国ですが、身分的には何ら問題ありません」
「でもあたしたち、昨日会ったばかりよ!」
「時間は関係ありません。わたしはひとめで勇敢で美しいあなたに恋をしました。そして感じたのです。あなたこそ運命の人だと」
 おそろしく思い込みの激しい王子さまに、梨華はドン引きする自分を感じた。
 あの時の印象は梨華にしてみれば、王子さまにしてはずいぶんとヘタレ、というくらいしかなかったのに。
 気持ちを落ち着かせようと、梨華はお茶をひと口飲んで、おもむろに口を開いた。
「ダメよ」
「え?」
 あっさりと断られ、リシャールが眼を(しばたた)かせる。
「なぜです !?
「だって、あたしは母さまの後を継いで水軍の(おさ)になるんだもの。ガンディアの王子さまとは結婚できないわ」




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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