第51話 王冠の重み

文字数 794文字

 翌日、新国王の戴冠式に、コンテッサの街は朝から華やかな雰囲気に包まれていた。
 羅紗水軍の船団は予定通り出港し、海上で祝砲を撃った。梨華がリシャールにした約束だ。
 その光景を王冠をかぶり、緋色のマントをまとったリシャールは王宮のバルコニーから見つめていた。白い帆船の群れが真っ青な海に浮かび、鮮やかなコントラストをなしている。
「兄上」
 振り向くと、背後にアレンが立っていた。
「この度は国王就任お喜び申し上げます」
 ありがとう、とリシャールは微笑してみせた。
「しかし、国王といってもわたしはまだ未熟者だ。そなたにもぜひ力を貸して欲しい」
 はい、とアレンは力強く兄の言葉を受け止める。
 少しの沈黙の後、リシャールは逡巡しながら弟に問いかけた。
「……わたしを恨んでいるかい?」
 実母クリスティナは宮廷を追放された。わだかまりが全くないといえば嘘になるだろう。
 が、アレンは即座に首を振った。
「母のしたことは大きな過ちです。一国の王妃として許される行為ではありません。知っていたなら何としても止めたでしょう」
 一言でも打ち明けてくれれば、このような結末は防げたのに。
 兄を押しのけて王座に就くよりも、母がそばにいて笑いかけてくれる……そんな日々の方がはるかに幸せだったのに。
「むしろ兄上の寛大な処遇に感謝しています」
 殺人の濡れ衣を着せ、王位継承者を陥れようとしたのだ。死罪になってもおかしくはない。
「そう言ってもらえると、わたしも気持ちが楽になるが……」
 ただひとりの弟に、リシャールはほっとしたような表情を向ける。
 弟の誠実な人柄はよく知っている。この不幸な事件を乗り越え、きっと手をたずさえていけるだろう。
 頭上の王冠の重みがずっしりと感じられ、これからうんと勉強せねば、とリシャールは覚悟した。
 この国をよりよく治めるために。いつか再会した時、立派な国王として梨華に認めてもらえるように。




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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