第31話 王妃の罠

文字数 693文字

 見張りの兵を残し、王妃は背を向けて出ていった。リシャールは全身から力が抜けてしまい、長椅子に座り込む。
 訳の分からないことだらけだ。なぜモーリス医師は殺されたのか。その遺体がどうして自分の隣にあったのか。そしてジュリオの消息はどうなっているのか。
「部屋に監禁されたまま、わたしはじっと待ちました。ジュリオがわたしの無実を証言してくれるのを。ですが……」
 数刻の後、戻ってきた王妃は勝ち誇ったように笑った。
「残念でしたね、リシャール。ジュリオ・マクギリスは昨夜あなたと一緒になどいなかったと言っていますよ」
 リシャールは頭の中が真っ白になるのを感じた。なぜジュリオはそのような虚言を──。
 どこかおかしい。いったい何が起こっているのか。
「ジュリオはどこです? 何かの間違いです。彼に会わせてください!」
「往生際が悪いですよ、リシャール!」
 王妃の鋭い声が飛ぶ。
「罪人としてそなたを地下牢へ監禁します」
 衛兵がリシャールの肩をつかみ、強引に長椅子から立ち上がらせようとする。
 その時だった。部屋に武装した一群がなだれ込んできた。先頭にいるのはアストア伯だ。
「お逃げ下さい、リシャール殿下!」
 茫然自失としているリシャールの耳に、慣れ親しんだ声が力強く流れ込んでいる。
「このままでは殿下は殺人犯にされてしまいます。この場はひとまず逃げて身の潔白をお示しください!」
「乱心しましたか、アストア伯!」
「ご乱心はそちらではございませぬかな、クリスティナ王妃!」
 ふたりのやり取りを聞きながらリシャールはようやく気づき始めていた。漠然としていた考えが輪郭をとっていく。これは──王妃の仕組んだ罠だ。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み