第31話 王妃の罠
文字数 693文字
見張りの兵を残し、王妃は背を向けて出ていった。リシャールは全身から力が抜けてしまい、長椅子に座り込む。
訳の分からないことだらけだ。なぜモーリス医師は殺されたのか。その遺体がどうして自分の隣にあったのか。そしてジュリオの消息はどうなっているのか。
「部屋に監禁されたまま、わたしはじっと待ちました。ジュリオがわたしの無実を証言してくれるのを。ですが……」
数刻の後、戻ってきた王妃は勝ち誇ったように笑った。
「残念でしたね、リシャール。ジュリオ・マクギリスは昨夜あなたと一緒になどいなかったと言っていますよ」
リシャールは頭の中が真っ白になるのを感じた。なぜジュリオはそのような虚言を──。
どこかおかしい。いったい何が起こっているのか。
「ジュリオはどこです? 何かの間違いです。彼に会わせてください!」
「往生際が悪いですよ、リシャール!」
王妃の鋭い声が飛ぶ。
「罪人としてそなたを地下牢へ監禁します」
衛兵がリシャールの肩をつかみ、強引に長椅子から立ち上がらせようとする。
その時だった。部屋に武装した一群がなだれ込んできた。先頭にいるのはアストア伯だ。
「お逃げ下さい、リシャール殿下!」
茫然自失としているリシャールの耳に、慣れ親しんだ声が力強く流れ込んでいる。
「このままでは殿下は殺人犯にされてしまいます。この場はひとまず逃げて身の潔白をお示しください!」
「乱心しましたか、アストア伯!」
「ご乱心はそちらではございませぬかな、クリスティナ王妃!」
ふたりのやり取りを聞きながらリシャールはようやく気づき始めていた。漠然としていた考えが輪郭をとっていく。これは──王妃の仕組んだ罠だ。
訳の分からないことだらけだ。なぜモーリス医師は殺されたのか。その遺体がどうして自分の隣にあったのか。そしてジュリオの消息はどうなっているのか。
「部屋に監禁されたまま、わたしはじっと待ちました。ジュリオがわたしの無実を証言してくれるのを。ですが……」
数刻の後、戻ってきた王妃は勝ち誇ったように笑った。
「残念でしたね、リシャール。ジュリオ・マクギリスは昨夜あなたと一緒になどいなかったと言っていますよ」
リシャールは頭の中が真っ白になるのを感じた。なぜジュリオはそのような虚言を──。
どこかおかしい。いったい何が起こっているのか。
「ジュリオはどこです? 何かの間違いです。彼に会わせてください!」
「往生際が悪いですよ、リシャール!」
王妃の鋭い声が飛ぶ。
「罪人としてそなたを地下牢へ監禁します」
衛兵がリシャールの肩をつかみ、強引に長椅子から立ち上がらせようとする。
その時だった。部屋に武装した一群がなだれ込んできた。先頭にいるのはアストア伯だ。
「お逃げ下さい、リシャール殿下!」
茫然自失としているリシャールの耳に、慣れ親しんだ声が力強く流れ込んでいる。
「このままでは殿下は殺人犯にされてしまいます。この場はひとまず逃げて身の潔白をお示しください!」
「乱心しましたか、アストア伯!」
「ご乱心はそちらではございませぬかな、クリスティナ王妃!」
ふたりのやり取りを聞きながらリシャールはようやく気づき始めていた。漠然としていた考えが輪郭をとっていく。これは──王妃の仕組んだ罠だ。