第23話 白羽の矢
文字数 603文字
会見はそれで終わりだった。そもそも肝心のリシャールがいないのでは、詳しい話もできない。
「母上、この後はお忙しいですか?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「でしたら少し息抜きに庭園を歩きませんか」
ちょうど薔薇が見頃の季節で、庭園は心地よい香りに満ちている。
自分の速度に合わせてゆっくりと歩いてくれる息子に、クリスティナは先程までの苦い感情が消えていくのを感じた。
「また背が伸びましたね」
「そうですか?」
首を傾げるアレンにクリスティナは慈愛のこもった眼差しを向ける。
「じきにわたくしを追い越しますね」
アレンは小さい頃から優しい子だ。今までにも、どれほど息子の存在が支えになってきただろう。
薔薇の香りに包まれながら、クリスティナは嫁いできた頃を思い出していた。
前王妃が亡くなり、喪が開けた時。宮廷は次の王妃を選ばねばならなかった。残された王子はまだ幼く、母が必要だ。それに一国の当主がいつまでも独り身というわけにはいかない。
公的にも私的にも国王は新しい妃を必要としていた。
そこで白羽の矢が立ったのがクリスティナだった。前妃のアンリエッタとは従妹 にあたり、家柄も申し分ない。
初めて宮廷から意向を伝えられた時、クリスティナは驚き、畏れ多いことだと身を震わせたものだ。
最初は辞退したものの、宮廷侍従長のソラリスは熱心だった。国王陛下もクリスティナさまを妃にと望んでおられます、その言葉が彼女を決心させた。
「母上、この後はお忙しいですか?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「でしたら少し息抜きに庭園を歩きませんか」
ちょうど薔薇が見頃の季節で、庭園は心地よい香りに満ちている。
自分の速度に合わせてゆっくりと歩いてくれる息子に、クリスティナは先程までの苦い感情が消えていくのを感じた。
「また背が伸びましたね」
「そうですか?」
首を傾げるアレンにクリスティナは慈愛のこもった眼差しを向ける。
「じきにわたくしを追い越しますね」
アレンは小さい頃から優しい子だ。今までにも、どれほど息子の存在が支えになってきただろう。
薔薇の香りに包まれながら、クリスティナは嫁いできた頃を思い出していた。
前王妃が亡くなり、喪が開けた時。宮廷は次の王妃を選ばねばならなかった。残された王子はまだ幼く、母が必要だ。それに一国の当主がいつまでも独り身というわけにはいかない。
公的にも私的にも国王は新しい妃を必要としていた。
そこで白羽の矢が立ったのがクリスティナだった。前妃のアンリエッタとは
初めて宮廷から意向を伝えられた時、クリスティナは驚き、畏れ多いことだと身を震わせたものだ。
最初は辞退したものの、宮廷侍従長のソラリスは熱心だった。国王陛下もクリスティナさまを妃にと望んでおられます、その言葉が彼女を決心させた。