第14話 五つのティーカップ

文字数 719文字

 その頃、母と末娘は食堂でのんびりとお茶をしていた。こちらでもジャスミン茶の甘い香りが漂よい、お茶うけはナツメの干し菓子だ。
 梨奈はうっとりと、
「素敵ね。梨華姉さまに王子さまが会いにくるなんて……おとぎ話みたい」
「よもや助けた相手が本物のガンディアの王子とはな」
 梨華自身、昨日家族に話したきり、ほとんど忘れていたのである。
「ねえ、母さま。おじいさまと父さまと兄さまはどうしたの?」
 カップは五つ用意したのだが、この場にいるのは阿梨と梨奈だけだ。男たちの姿が見当たらない。
「さあ……今頃は応接室の扉の前にでもへばりついているのではないかな」
 カップを手にしたまま、梨奈は小首を傾ける。
「どうして?」
「梨華に花束持って男が会いに来たから、気になって仕方がないのだろう」
「それってそんなに大変なこと?」
「わが家の男たちにとっては大ごとらしい」
 微笑する母に、梨奈は首をかしげたままだ。
「梨奈も年頃になればわかるよ」
 月日の経つのは何と早いことか。もう子供じゃないわ! と頬をふくらませていた小さな梨華が、いつの間にか十八歳だ。 
 それにしても、わが家の男どもときたら。
 使われていないカップに視線を投げ、二杯目のジャスミン茶を注ぎながら、阿梨は思わず嘆息した。
 梨華に男が会いに来ただけで、この騒ぎだ。末っ子の梨奈が年頃になった(あかつき)には、いったいどうなることやら。
 勇駿あたりは本気で決闘を申し込みかねない。下手をしたら、勇仁、勇利も同様だ。 
 流血沙汰の覚悟をしておいた方がよいかもしれない……。




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登場人物紹介

梨華(りか)


強く美しい乙女に成長した、水軍の長の娘。十八歳。武術の才は母譲り。

母の跡を継いで、将来は水軍の長になるのが目標。

リシャール


ガンディア国の第1王子。梨華に一目惚れしてプロポーズする。

美形で紳士だが、ややヘタレ。

勇利(ゆうり)


梨華の双子の兄。理知的で穏やかな少年。勝気な妹に振り回されること多し。

梨奈(りな)


梨華と勇利の9つ下の愛らしい妹。家族に溺愛されている末っ子。

阿梨(あり)


梨華が敬愛する母。羅紗国の王女にして水軍の美しき長。

しなやかな知略と一歩も引かない剛毅さを合わせ持つ。

ジュリオ


リシャールの幼馴染で親友。リシャールが巻き込まれた事件の鍵を握る。

クリスティナ


ガンディア国の現王妃。リシャールの継母。

自分の息子アレンを王位につけるべく陰謀をめぐらせる。

エレナ


ジュリオの妹。ひそかにリシャールを慕う病弱な少女。

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