第9話 大切に
文字数 859文字
夕食が終わると家族はそれぞれの部屋に引き揚げた。梨華と梨奈は二人で旗艦の貴賓室を使っている。
この部屋は以前、タジクの第一王女アディーナ姫が航海の際に使用していたのだが、後は貴賓室を使うような客もなく、今ではすっかり姉妹の部屋となっている。
「昔ね、この部屋にはとても綺麗で優しいお姫さまが泊まっていたの」
二人で長椅子に座りながら、梨華は時折、妹にアディーナ姫のことを懐かし気に話してきかせた。
「そのお姫さまはね、サマルディンの王妃になって、お子さまも生まれて幸せに暮らしているそうよ」
絹糸のような金の髪。緑の瞳。優しく微笑 んでいた憧れの姫君。
梨華の脇腹にはナイフの傷跡がある。刺客からアディーナ姫を守った時の名誉の負傷というやつだ。
「姉さまはね、生まれてくる子が妹だったら、アディーナ姫さまのように綺麗なドレスを着せてうんと可愛くしてあげようと夢見ていたの。だから梨奈が生まれた時は本当に嬉しかったわ」
しかも梨奈は姉の期待に応え、くりっとした瞳の愛らしい少女だ。大いにドレスの選び甲斐があるというものだ。
眼を輝かせながら姉の話を聞いていた梨奈は、そこで、こほっと小さな咳をした。
とたんに梨華は顔色を変え、急いで妹の背中をさすってやる。
「梨奈、大丈夫 !?」
ただの咳、と梨奈はうっすら笑ってみせる。
「夕食の前、ずっと甲板で待ってたの? 海風が冷たかったでしょ。無理しちゃダメよ」
梨奈の額に手を当てながら、熱がないのを確かめる。
妹は体があまり丈夫でない。何かあるとすぐに熱を出してしまう。母の話では祖母の真綾 に体質が似たのではないかという。
──母上は美しい人だったが、線が細くて病 がちだった。隔世遺伝かもしれないな。
だから梨奈は大切に大切にしてやらないといけないのだ。
「着替えて横になりましょうか。話はベッドの中でもできるわ」
素直にうなずく梨奈を寝間着に着替えさせてやり、自分も飾り気のない白の上着と脚衣に着替えると、姉妹はベッドにもぐりこんだ。横になりながら、梨華は妹の柔らかな髪を撫でてやる
この部屋は以前、タジクの第一王女アディーナ姫が航海の際に使用していたのだが、後は貴賓室を使うような客もなく、今ではすっかり姉妹の部屋となっている。
「昔ね、この部屋にはとても綺麗で優しいお姫さまが泊まっていたの」
二人で長椅子に座りながら、梨華は時折、妹にアディーナ姫のことを懐かし気に話してきかせた。
「そのお姫さまはね、サマルディンの王妃になって、お子さまも生まれて幸せに暮らしているそうよ」
絹糸のような金の髪。緑の瞳。優しく
梨華の脇腹にはナイフの傷跡がある。刺客からアディーナ姫を守った時の名誉の負傷というやつだ。
「姉さまはね、生まれてくる子が妹だったら、アディーナ姫さまのように綺麗なドレスを着せてうんと可愛くしてあげようと夢見ていたの。だから梨奈が生まれた時は本当に嬉しかったわ」
しかも梨奈は姉の期待に応え、くりっとした瞳の愛らしい少女だ。大いにドレスの選び甲斐があるというものだ。
眼を輝かせながら姉の話を聞いていた梨奈は、そこで、こほっと小さな咳をした。
とたんに梨華は顔色を変え、急いで妹の背中をさすってやる。
「梨奈、大丈夫 !?」
ただの咳、と梨奈はうっすら笑ってみせる。
「夕食の前、ずっと甲板で待ってたの? 海風が冷たかったでしょ。無理しちゃダメよ」
梨奈の額に手を当てながら、熱がないのを確かめる。
妹は体があまり丈夫でない。何かあるとすぐに熱を出してしまう。母の話では祖母の
──母上は美しい人だったが、線が細くて
だから梨奈は大切に大切にしてやらないといけないのだ。
「着替えて横になりましょうか。話はベッドの中でもできるわ」
素直にうなずく梨奈を寝間着に着替えさせてやり、自分も飾り気のない白の上着と脚衣に着替えると、姉妹はベッドにもぐりこんだ。横になりながら、梨華は妹の柔らかな髪を撫でてやる