5月21日 台湾コロナ禍となぜかガッキー?

文字数 3,424文字

 ついに来てしまいました、台湾にもコロナの波が。
 最初、台北市と新北市が「三級警戒」(数字が大きいほど警戒レベルが高く、三級は上から二番目)となったのですが、すぐに範囲が拡大され、今や全台湾が「三級警戒」です。政府は、買い物などどうしても必要な場合以外の外出を控えるよう呼びかけています。
 
 感染源はいくつか挙げられています。先ずは中華航空(チャイナ・エアライン)のパイロット。
 元々台湾では国際線のパイロットには特別措置が採られていて、隔離は通常の二週間でなく三日でいいことになっていました。ただ三日が過ぎた後も、自主健康管理期間なので行動には十分注意を払うべきなのですが、このパイロットは平気であちこち人の多いところに出入りしていたらしく、その結果、感染を拡大させたと言われています。また、同じく中華航空が管理する「防疫旅館」(隔離期間用のホテル)でもクラスターが発生しました。今回は当然ながら、中華航空の管理責任を批判する声が多く上がっています。

 もう一つ感染源として挙げられているのが、「萬華の茶室クラスター」事件です。

 萬華は、台北の西南部にある町です。観光地として有名な龍山寺の近くなのですが、下町的というか、日本で言えばちょっと浅草っぽいイメージのところです。
「茶室」という言葉から、今皆さんは茶道みたいなものを想像しているかもしれませんが、この「茶室」はちょっと……いや、かなり違います。

 表向きはお茶を飲むところだそうですが、実際には特殊なサービスを提供するお店だったようです。
 衛生福利部の陳時中部長は、記者会見において非常に控え目な表現で、「この茶室では『人與人的連結(レン・ユゥ・レン・デェ・リィエン・チィエ)(人と人との連結)』が行われたようだ」と述べて話題になり、この「人與人的連結」という言葉がトレンド入りしました。
 聞いたところによると、海外ではもっと直接的に「Sexy Tea」などと訳した記事もあったとか。「セクシー・ティー」って……。

 とにかく、この「茶室」――なんでも萬華のその一帯には、この手の店が違法・合法を含めて軒を並べており、しかも、萬華の近くの蘆洲(但し蘆洲は新北市)に住む台湾ライオンズクラブの元会長とかいう人まで、ここで遊んで感染し、更にいろいろな場所へ行っていた事実(なんでそんなに精力的なの?)が発覚して大騒ぎ。諷刺画の恰好なネタになりました。例えば、これ。↓
URL:https://www.eracom.com.tw/EraNews/Home/Life/2021-05-13/446568.html

 ライオンズクラブの元会長なので、ディズニー映画の「獅子王(ライオンキング)」になぞらえ、旅行会社のポスター風に「蘆洲ライオンキング一日旅行」と題し、この元会長が行ったとされる場所がツアーの観光スポットみたいに列挙されています。
 他にも、雄ライオンが雌ライオンに「人と人との連結って何なのよ!」と怒られ、小声で「お、お茶飲んだだけ……」と答えている諷刺画もありました。

 なぜ萬華の茶室が感染源となったのかは目下調査中とのことですが、なにしろこうした業務内容なのに加え、違法経営の店などもあったため、店側も客も正直に申告せずに隠そうとしたことが、感染を一気に拡大させる原因になったと言われています(まったく笑えない!)。
 
 正に蟻の一穴(いっけつ)。小さな穴が開くと、そこから一気に崩れて大浪が流れ込んでくる。先週末から毎日300人ほどのペースで感染者が増え、今日までで海外から帰国した人も含め、累計感染者数3139人、累計死亡者数15人となっています。正直コロナの恐ろしさが初めて身に染みました。

 何しろ500日もほぼ普通の日常生活を送っていたところに、いきなりこの大波の一撃。今台湾中の人が大きなストレスに晒されているといっても過言ではありません。なんでも病院の精神科には受診を希望する人が引きも切らず詰めかけているんだとか。かく言うわたしも受診したいくらいですけれど、人の多い病院にのこのこ出かけていく勇気はないので、おとなしく家からほとんど出ずに暮らしています。

 本来は、こういう時こそじっくりと時間をかけて本を読んだり、地道に勉強したりすべきなんでしょう。ところが、わたしにとって極めて珍しいことに、この一週間ほどすっかり本が読めなくなってしまったんです。文章が頭に入ってこないどころか、活字をひとつひとつ眼で追っていくことにイライラしてしまい、全く集中できない。こんな経験は初めてのことです。
 仕方がないので、仕事以外の時間は、動画配信サービスの日本ドラマ――「イチケイのカラス」とか「コントが始まる」とかを見ていました。

 日本ドラマはつまらないから見ない、とさんざん周りの人に言っていたくせに、いざとなるとやっぱり日本語が聞きたくなってしまう自分の意気地なさには苦笑するしかありません。でもおかげで、鬱っぽい気分の時に竹野内豊の声を聞くと不思議に落ち着くというささやかな発見がありました(笑)。

 今週はなんとか乗り切ったものの、相変わらず本を読む気になれないので、ぼんやりネットニュースを見ていたところ、こんな記事を見つけました。

 タイトルは『老闆自主關店!理由竟是「疫情升溫+新垣結衣結婚」雙重打擊崩潰了 』。
 URL: https://www.ettoday.net/news/20210521/1987293.htm#ixzz6vTQfuXUX

 店内での飲食は事実上禁止されているので、多くの飲食店がテイクアウトに切り替えているのですが、中には自主休業するところもあります。その「休業のお知らせ」が面白いと話題になっているお店があるという記事です。

 写真は二枚ありますが、まず右の手書きの方――ある焼き肉店のお知らせから見てみましょう。

 原文:由於疫情嚴重,老闆掛了就沒人烤肉了。因此等疫情退去老闆再看啥時能開。俗辣辣老闆上

 これはかなり口語っぽい文なので、わたしもそういう感じで訳してみます。

 訳:コロナがヤバすぎて店主寝込んじゃって、肉焼くやついないから休みます。コロナ収まってから、またやるかどうか考えるよ。チキン店主啓上

 最後の「俗辣辣老闆」の「老闆」は「店主」、「俗辣辣(ス・ラ・ラー)」は台湾語で、「臆病」「腰抜け」といった意味。

 左の方はある日本料理店のものですが、こちらは手書きでなくちゃんと印刷されてあり、一見まともそうですが、内容はむしろ左の方が脱力系です。

 原文:滋因應新垣結衣結婚,老闆受不了打擊崩潰喪失工作能力,無法處理生魚片。5月28號前,本店僅供熟食外帶。

 この日本料理店、(わざと)真面目な書き言葉的文体を使っています。ですから、わたしの訳の方もそんな感じで――

 訳:新垣結衣の結婚の報により、店主が甚大な精神的ダメージを受け、仕事能力を喪失。さしみを造ることが困難になったため、5月28日まで当店はさしみ以外のテイクアウトのみのご提供とさせていただきます。

 涙を流しているお化けみたいなイラストの吹き出しには、日本語で「ガッキー」の文字が……。

 コロナだけならまだ頑張れたかもしれないのに、ガッキー結婚の衝撃には耐えられなかったんだね、可哀相に。それにしても、台湾の日本料理店の業務にまで重大な影響を及ぼすなんて、嗚呼(ああ)新垣結衣、罪な女!

 って店主さん、どんだけガッキー好きなの?!

 でも、くだらなすぎて笑えたし、笑った後は少し気持ちが楽になりました。
 大変な時期こそユーモアって大事なんだなあ、としみじみ感じた次第です。

 ネットニュースで取り上げられた「休業のお知らせ」には、計算されたユーモアを感じますが、実際にわたしたちの生活でも、ここまでは我慢できたけれど、それを少しでも越えたらもう耐えられないというのがありますよね。

“The last straw breaks the came's back.”(最後の(わら)一本がラクダの背中を折る)という言葉があるように、頑張って頑張ってなんとか持ちこたえていて、でも最後の藁――たった一本の藁の重さによって心が折れてしまう。実は台湾がコロナ禍にみまわれる前から、わたしの頭の中で繰り返し鳴っていた言葉でした。

 なんとか最後の一本の藁を身に受けないように、気をつけて生きていきたいものです。人間って本当に脆弱(ぜいじゃく)で、簡単に壊れてしまうものだから。

 

 

 

 

 
 

 
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