6月4日 日本からのコロナワクチン提供と台湾の反応

文字数 3,030文字

 届きました! 本日台湾時間午後2時、日本から提供されたAZコロナワクチン124万回分が台湾に。

 先程、JALの飛行機が桃園空港へ着陸するところが実況中継されていましたが、とにかく今日の台湾は、このニュースで持ち切りです。

 わたしまで周りの台湾人から、「感謝!」とか言われてしまい、
「いえいえ、わたしなどに言われましても(恐縮しきり)」
「いいじゃん!あなた

日本人でしょ?」
「ま、まあ、一応……」
 とか、
 また別の人からは、
「このコロナ騒ぎが収まったら、高級レストランで食事をおごってあげる!」
「な、なんで@@?」
「だって、あんたはわたしが知ってる唯一の日本人だから」
「そ、それが理由……?!
 なんていう会話までありました。

 他にもネットで見たのですが、
「今から日本円を貯める!」(コロナ禍が収まったら、日本へ旅行に行くという意味)
「コロナ禍前は、毎年二回日本へ旅行に行っていたが、また日本に行けるようになったら、今度は年に四回行く!」(年に二回というのが、既にわたしの帰省回数より多いんですけど)

 等々、喜びのコメントでいっぱいで、いくら台湾が世界一の親日国だとは言え、ここまで日本人気が高まったのはわたしが知っている限り初めてではないかと思います。

 日本政府が台湾に対し、AZのコロナワクチンの提供を検討中というのは、5月28日あたりからニュースになっていたのですが、確定情報となったのは昨日でした。

 最初に報道したのは、台湾の著名女性ジャーナリスト周玉蔻さんのラジオ番組です。情報提供者はゲスト出演していた産経新聞台北支局長の矢板明夫さん。
 この矢板明夫さん、日本の皆さんはご存知ないと思いますが、今台湾で最も有名な日本人の一人です。

 産経新聞の報道姿勢とか論調とかは、正直わたしはあまり支持できないのですが、この矢板さん、台湾の番組に出演する際は、社の立場を離れ、あくまで個人として発言しているようです。
 なんでも父親が中国残留孤児、母親が中国人で、生まれは中国。十何歳まで大陸で育った後日本へ戻った方なのだそうで、中国語は文字通り母語ですし、発言にも独特の視点が感じられて面白いということで、今やテレビの政治討論番組に引っ張りだこです。

 矢板さんはラジオ番組で、今回日本政府が台湾へのコロナワクチン提供を決定するに至った背景として、蔡英文総統の対日外交政策の成功と、駐日代表※1が謝長廷氏であった点などを挙げていました。

 確かに、蔡英文総統は2016年の就任以来、一貫して日本との外交関係を重視してきました。日本と台湾の民間交流はずっと盛んであるとは言え、中国寄りの国民党・馬英九政権時代は、日本との外交関係は明らかにぎくしゃくしていましたし、マスコミでも日本を批判する報道がけっこう目立ったりしました。

 それが2016年以降、明らかに変わりました。政治と民間交流は別物とは言え、やはり時の政権やマスコミの影響が大きいことを実感したものです。

 蔡英文総統の公式twitterでは、対外的に英語と日本語が使われているのをご存知でしょうか。現在トップに固定されているツイートはこれです。



 
 蔡英文総統はロンドン大学で博士号を取得しており、言うまでもなく英語はめちゃくちゃ堪能なのですが、日本語に関してはおそらく側近の方が書いているらしく、ちょっと硬さのある表現だったりしますが、とにかく、一国の元首が直接日本語で発信するというのは前例がないのではないでしょうか。
 また、蔡総統は、今日更新されたフェイスブックでも、こちらは中国語で日本への感謝を述べています。



 6月4日は、奇しくも32年前、中国で天安門事件が起こった日です。自由・民主を掲げる民進党の蔡総統らしく、前半は日本への感謝を、後半は天安門事件への思いを綴っています。

 前半の日本に言及した部分を、わたしが訳してみます。

 6月4日の今日、日本からコロナワクチンが到着します(南ノ註:今日のお昼に発表されたため、その時点ではまだ到着していなかった)。
 自由民主という同一の価値観を共有する盟友の手から送られた、正に時を得た援助に感謝致します。この贈り物は民主国家台湾に、自らの民主を信じる力を与えてくれました。

 それから、矢板明夫さんも指摘していたように、今回の件では特に駐日代表である謝長廷氏の功績が大きかったと言われています。
 謝長廷駐日代表は、かつて行政院院長という政府の要職にも就いたことがある民進党の重鎮です。
 謝代表は台湾大学法律学科を卒業後、日本に留学し、京都大学で後期博士課程を修了した方で、李登輝亡き後の台湾の政治家の中で、おそらく最大の知日家です。

 今日の謝代表のフェイスブックでは、同じ内容を中国語と日本語の両方で書いています。以下が日本語の部分です。



 さすが京都大学博士課程、情理を尽くした見事な日本語!
 ここで言及されている「一年前の四月、私はこの場所で中華航空が台湾から運んできたマスクを迎えました」というのは、去年、台湾から日本へ200万枚のマスクが無償提供されたことを指しています。
 
 下の写真の、雨の中、ワクチンを積んだ飛行機におじぎをしているのが謝長廷氏です。政治的パフォーマンスと見るむきもあるかもしれませんが、この方は現在75歳の御高齢なんですよ!

 謝代表は一貫して誠実な仕事ぶりで知られる人で、民進党の重鎮でありながら、労多く、しかも立場的には行政院院長よりずっと格下の駐日代表をあえて引き受けたところに、その御人柄が表れていると思います。

 実際、この方が駐日代表になってから、日本と台湾と政府間交流は非常に良好だと言われています。

 外交というのは、やっぱりふだんからの地道な積み重ねの結果なのだと思います。水面下でどのような交渉が行われたのか、わたしなどには知る由もありませんが、飛行機に向かっておじぎをする75歳の謝代表の姿は胸に迫るものがありました。

 まあ、今回のAZワクチンは、わたしのような年齢・仕事の者には回ってこないのですが、それでも、最近風当たりが強かった陳時中部長を始めとする衛生福利部の方々が、これでひと息つけると思うと、なんだかほっとしました。政府に対する国民からの批判というのは、健全な民主国家の証拠とも思いますが、500日も台湾を守り続けたという事実をすっかり忘却してしまったかのようなひどい批判も一部にはあり、特に矢面に立たされる陳時中部長が日に日に憔悴していく様が見るに忍びなかったのは事実です。

 というわけで、前回も紹介した衛生福利部のLINEにおける、今日の「總柴(ゾン・チャイ)」のコメントを紹介して、本日の締めくくりとしたいと思います。これに関しては、翻訳の必要はないでしょう!



※1 日本には台湾大使館がないので、大使ではなく代表と言います。正確には「台北駐日經濟文化代表處代表」。より詳しくは本エッセイの「5月28日 コロナワクチンと台灣總柴」の註を御覧下さい。

【附記】
 わたしが上記の文章を書いていた時の蔡英文総統の公式twitterのトップに固定されていたのは、上に紹介した内容で間違いなかったのですが、今見たら新しいツイートがトップに来ていました。そこで最新のツイートを「附記」として追加することにしました。日本語字幕付きの動画もありますので、興味のある方は、ぜひ蔡総統の公式twitter(@iingwen)を御覧下さい。



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