11月26日 台北市長選挙レポート(二)

文字数 2,212文字

 台湾の政治状況を日本人に説明するのは、非常に難しいです。

 民進党と国民党が現在の二大政党ですが、民進党支持派と国民党支持派では、日々観ているニュース番組も、ネット情報も全部違います。「社会分裂」という言葉がよく使われるのですが、確かに双方の溝の埋まらなさは「分裂」という言葉がぴったりです。

 そして、台北市は歴史的に、ずっと、圧倒的に国民党の地盤です。

 現与党の民進党ですが、民進党で台北市長を務めたのは、なんと一人だけ――市長選挙が民主的選挙となった後の、第一代台北市市長陳水扁です。

 1994年に、陳水扁は台北市長となりました。台北市長としての陳水扁の評価は非常に高く、市民満足度も極めて高かったにも拘らず、一期4年だけで国民党の馬英九に敗れ、再選は果たせませんでした。

 陳水扁はその後、2000年に台湾総統になりますが、それは総統選挙が台湾全国の20歳以上の国民の直接投票で決まるからです。

 民進党は元々台湾南部での支持率が圧倒的に高いのです。

 ここで、台湾の政党のイメージカラーについて紹介しておきます。

 民進党のイメージカラーは「緑」
 国民党のイメージカラーは「青」

 台湾では、選挙の話題をする時、「あなたは緑? 青?」とあらかじめ相手に訊ねることがよくあります。

 これは支持政党の違う人同士が不愉快な気分になることを避けるための台湾人の知恵です。

 支持する政党が違う場合、結局どこまで話し合っても永遠に平行線のままなので(何しろ歴史的な問題が絡んでくるので、その溝の深さは日本のコロナ界隈の「ワクチン派」と「反ワクチン派」の対立の比ではありません)台湾人はこういう時、「無駄な議論はしない」人が多いのです。賢明ですよね!

 現在の台北市長・柯文哲は、今から8年前の2014年、「自分は青でも緑でもない」と無党派を強調して立候補しました。

 柯文哲は元々台湾大学病院の医師でした。
 日本の学歴ピラミッドの頂点は東京大学法学部ですが、台湾の場合は、台湾大学医学部です。

 ちなみに、台湾大学の前進は「日本時代」※の台北帝国大学です。日本時代には、台湾人の政治参加を制限するため、「医学部を卒業して医者になる」のが最高のエリートコースとされた、という歴史的背景があります。

 現在まで続く台湾の医学部重視の社会的風潮は、歴史的には日本時代の政策とも関係があるという説があります。

 歴史問題は今は置いておくとして、確かに医師という職業に従事する人に対する無意識的な信頼感が現代台北社会にあるのは事実であり、柯文哲はそこを巧みに利用したと言えます。 

 8年前、民進党もこの柯文哲にすっかり騙され、あえて自党の候補者を擁立しなかったのです。それで民進党の票が全部柯文哲に流れ、国民党候補者に勝って台北市長となりました。

 ところが、この柯文哲がとんでもなかった‼
 
 柯文哲は民進党に恩がありながら、市長に当選するとあっさり民進党とは袂を分かち、自分は青でも緑でもない「白色力量(ホワイトパワー)」であるとして、台湾民衆党というのを作りました。

 この台湾民衆党が、実際にはホワイトどころか、思いっきりブラックだという……(シャレになりませんよ、まったく)

 一例を挙げると、元々台北市には「台北ドーム(台北大巨蛋)建設問題」というのがあり、国民党と財閥の癒着が問題視されていました(当時の台北市長は国民党の郝龍斌)。

 そこで柯文哲は「台北ドーム建設案を廃案にする」ことを公約として掲げ、台北市民の支持を集めました。

 ところが、8年後の現在……台北ドームはほとんど完成しています。

 あれれ?

 財閥との癒着問題を明らかにし、透明化をはかるどころか、自分が財閥と思いっ切り癒着しているという……(なにそれ?)

 他にも、すごくはっきりしたデータがあります。柯文哲が市長を務めた8年の間に、台北市から二十数万人もの人口が流出しました。

 逆に人口が増えているのは台湾の第二都市・高雄で、高雄市長は民進党の陳其邁です。コロナのワクチン接種などでも、台北市はいろいろ問題があったのに対し、一方の高雄市の対応はすばらしく、当時「台北市民をやめて、高雄市民になりたい」という言葉が台北で流行ったくらいです。

 日本の東京人と同じで、台北人は首都の市民として誇りを持っている人がけっこういるので、「高雄市民になりたい」というのはかなり自虐的な発言です。

 三つ巴台北市長選の一角を担う黃珊珊は元台北市副市長で、柯文哲の後継者的な位置づけです。本人は無党派と言っていますが、実際には限りなく台湾民衆党に近い立場です。

 いや、ダメでしょ。この人は!

 とわたしなどは思ってしまいますが、「青と緑の不毛な争いにはもううんざりだ、どっちでもない白を応援する」という台北市民も一定数いるのは事実です。

 ただ、黃珊珊が市長になる可能性はかなり低いだろうと予想されます。

 そして、最後のひとりは、陳時中の最大のライバル、国民党が擁立する蔣萬安です。

 この蔣萬安がですね、いろいろ語りがいのある人なんですよ~!

 というわけで、また長くなってきたので、再度稿を改めたいと思います。

※日本時代:日清戦争によって、清は1895年に台湾と澎湖諸島を日本に割譲した。それから1945年の日本敗戦まで、日本が台湾を統治した50年を指す。「日本殖民地時代」、「日本領台時代」等とも呼ばれる。
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