5月28日 コロナワクチンと台灣總柴
文字数 2,645文字
今日の台湾は、アメリカのモデルナ(Moderna)社製のコロナワクチン15万回分が、オランダの空港から無事出荷され、現在、中華航空(チャイナ・エアライン)の飛行機によって台湾へ空輸中というニュースで持ち切りです。
ついにコロナ禍の波に襲われてしまった台湾、目下の急務はワクチンの手配ということになるのですが、もちろん台湾政府は、コロナ患者が急増してから慌ててワクチン購入に動いたわけではありません。
台湾政府のワクチン手配は水面下でずっと行われていました。しかし、その成果に関して、なかなか表立っては公表できませんでした。日本で暮らしている日本人にはなかなか想像できないことだと思いますが、交渉段階で公表してしまうと、必ず中国からの妨害が入るからなのです。今回の件でも、中華航空の飛行機がオランダの空港から飛び立つことがはっきりして初めて、大っぴらに報道されるようになりました。
人命に関わることに妨害なんてあるのか、陰謀論じゃないのか、と思われる方があるかもしれませんが、これは紛れもない事実で、台湾は常にこうした中国からの政治的な圧力や脅威に晒されています。
1972年という年は、日本の学校の「近現代史」の授業では、日本と中国(中華人民共和国)の「国交正常化」の年として教えていますよね。少なくとも、わたしの時代はそうでした。
でも、台湾から見ると、日本と台湾(中華民国)との国交断絶の年になってしまうのです。このように、物事には常に二面性があります。当時を知る人から、わたしはその時台湾で起こった日本バッシングの激しさを聞いたことがあるのですが、大学の日本語学科の学生が電車やバスの中で、他の乗客に見咎められるのを恐れ、日本語の教科書にわざわざカバーをかけ、隠れるように読んでいた一時期があったのだそうです。
「日中国交正常化」というのも、台湾側からすれば引っ掛かる言い方です。だって、それまで日本と台湾の間に結ばれていた国交が「不正常」だったと言っているようなものなのですから。
もしかしてご存知ない方がいるかもしれないので、念のために書いておきますと、台湾は世界一親日的な国と言われているにも拘 らず、未だに日本との間に正式な国交はありません。それが証拠に、日本に「台湾大使館」はなく、台湾に「日本大使館」はないのです。※1
要するに、たとえ実際に交流が盛んに行われていようと、日本は、いや日本だけでなく、欧米諸国も――いやいや、世界の殆どの国が、基本的に中国の「一つの中国」政策を受け入れ、台湾との間に正式な国交を結んでいないというのが現実です。
中国側のロジックに従えば、台湾問題は「内政問題」になってしまうので、中国は当然のような顔をして台湾に対し、政治的妨害や経済的圧力を加えてくるわけです。実際、今度のコロナワクチンの空輸でも、飛行機はわざわざ中国領空を迂回して飛ぶために、通常よりもずっと長い時間がかかる、とさっきニュースで報道していました。
台湾は独自の法律と軍隊、及び民主的な社会を持つ、れっきとした独立国でありながら、それを正式に認めてくれる国は殆どなく、悲壮な言い方をすれば、「世界の孤児」ということになります。
かつて李登輝元総統が、司馬遼太郎と対談した時に、有名な「台湾人に生まれた悲哀」という言葉を使いました。ここで李登輝が言っている「台湾人」は「本省人」の意味で、日本殖民地時代の台湾に生まれ、また戦後は蔣介石をはじめとする「外省人」からの迫害を受けたという歴史的背景を抜きには語れない言葉ですが、今のようにコロナ禍の中、ワクチンを手配するのにさえ、高度な外交手腕が必要とされる状況を見ていると、李登輝のこの言葉はまだ生きているのだな、と思わずにはいられません。
話がどうも暗く、湿っぽくなりました。
後半は心温まる、可愛い話にしましょう。
台湾で、コロナ関係の情報は「衛生福利部」というところから来るのですが、この「衛生福利部」は当初から「總柴 」というキャラクターを使ってきました。
いったい、どんなキャラクターなのでしょうか。
百聞は一見に如かず、先ずは下の画像を見て下さい。
左が陳時中衛生福利部部長、そして、右がわれらが「總柴」。
そう、柴犬です!
台湾で今、日本の柴犬がブームであることを背景に、更に「柴 」と「裁 」の発音が似ていることから、「總裁(総裁)」をもじって、この「總柴 」が誕生しました。
「答應我 !(約束して!)」
衛生福利部から国民に呼びかける時、「總柴」はしばしば(柴犬だけに)この決め台詞を使います。
わたしみたいに、モフモフ好き、且つ偉いおじさまに上からものを言われるのが苦手なタイプの人間には、もう効果テキメン!
「はい、はい! 約束します♡」となります。←単純なやつ。
例えば、休日は外に出ず、家にいるよう呼び掛けるお知らせはこんな感じ。
總柴は写真だけでなく、絵バージョンもあります。
絵バージョンの總柴が、「正しい手の洗い方」を教えてくれています。
台湾のコロナ禍は今かなり厳しい状況ですが、總柴の可愛らしさに癒されているのはわたしだけではない筈です。
總柴には、きりっと眼鏡をかけたバージョンもあり、その時は少し厳しい口調になるのですが、『吾輩は猫である』の名無し猫がわざと偉そうに語るのと同じ効果で、やっぱり可愛いくて――
「はい、はい! 總柴の言う通りにします♡」←わたしって、ある意味市民の鑑 。
というわけで、そろそろ今日のBGMの時間です。台湾を代表する熱いロック・バンド「滅火器」の「希望の明日」をお送りします。
URL:https://youtu.be/drZLKFugUa0
このタイトル、わたしが日本語訳したんじゃないんですよ。元々のタイトルが日本語なんです。この曲は、311東日本大震災から10年目の節目である今年の3月、「滅火器」が台湾のNGOである中華文化總會※2の依頼を受け、台日友好活動の一環として作った曲です。
日本人を励ますために作られた歌なのですが、今の台湾にもぴったりの曲だと思います。
※1 大使館がない代わりに、「日本台湾交流協会」(日本側)と「台北駐日經濟文化代表處」(台湾側)が、それぞれ対外業務を担当しています。
※2 「中華文化總會」は1967年に設立された、台湾文化事業に携わるNGO。非政府組織だが、歴代の会長は現職の総統が務めています。現会長は、もちろん蔡英文総統。
ついにコロナ禍の波に襲われてしまった台湾、目下の急務はワクチンの手配ということになるのですが、もちろん台湾政府は、コロナ患者が急増してから慌ててワクチン購入に動いたわけではありません。
台湾政府のワクチン手配は水面下でずっと行われていました。しかし、その成果に関して、なかなか表立っては公表できませんでした。日本で暮らしている日本人にはなかなか想像できないことだと思いますが、交渉段階で公表してしまうと、必ず中国からの妨害が入るからなのです。今回の件でも、中華航空の飛行機がオランダの空港から飛び立つことがはっきりして初めて、大っぴらに報道されるようになりました。
人命に関わることに妨害なんてあるのか、陰謀論じゃないのか、と思われる方があるかもしれませんが、これは紛れもない事実で、台湾は常にこうした中国からの政治的な圧力や脅威に晒されています。
1972年という年は、日本の学校の「近現代史」の授業では、日本と中国(中華人民共和国)の「国交正常化」の年として教えていますよね。少なくとも、わたしの時代はそうでした。
でも、台湾から見ると、日本と台湾(中華民国)との国交断絶の年になってしまうのです。このように、物事には常に二面性があります。当時を知る人から、わたしはその時台湾で起こった日本バッシングの激しさを聞いたことがあるのですが、大学の日本語学科の学生が電車やバスの中で、他の乗客に見咎められるのを恐れ、日本語の教科書にわざわざカバーをかけ、隠れるように読んでいた一時期があったのだそうです。
「日中国交正常化」というのも、台湾側からすれば引っ掛かる言い方です。だって、それまで日本と台湾の間に結ばれていた国交が「不正常」だったと言っているようなものなのですから。
もしかしてご存知ない方がいるかもしれないので、念のために書いておきますと、台湾は世界一親日的な国と言われているにも
要するに、たとえ実際に交流が盛んに行われていようと、日本は、いや日本だけでなく、欧米諸国も――いやいや、世界の殆どの国が、基本的に中国の「一つの中国」政策を受け入れ、台湾との間に正式な国交を結んでいないというのが現実です。
中国側のロジックに従えば、台湾問題は「内政問題」になってしまうので、中国は当然のような顔をして台湾に対し、政治的妨害や経済的圧力を加えてくるわけです。実際、今度のコロナワクチンの空輸でも、飛行機はわざわざ中国領空を迂回して飛ぶために、通常よりもずっと長い時間がかかる、とさっきニュースで報道していました。
台湾は独自の法律と軍隊、及び民主的な社会を持つ、れっきとした独立国でありながら、それを正式に認めてくれる国は殆どなく、悲壮な言い方をすれば、「世界の孤児」ということになります。
かつて李登輝元総統が、司馬遼太郎と対談した時に、有名な「台湾人に生まれた悲哀」という言葉を使いました。ここで李登輝が言っている「台湾人」は「本省人」の意味で、日本殖民地時代の台湾に生まれ、また戦後は蔣介石をはじめとする「外省人」からの迫害を受けたという歴史的背景を抜きには語れない言葉ですが、今のようにコロナ禍の中、ワクチンを手配するのにさえ、高度な外交手腕が必要とされる状況を見ていると、李登輝のこの言葉はまだ生きているのだな、と思わずにはいられません。
話がどうも暗く、湿っぽくなりました。
後半は心温まる、可愛い話にしましょう。
台湾で、コロナ関係の情報は「衛生福利部」というところから来るのですが、この「衛生福利部」は当初から「
いったい、どんなキャラクターなのでしょうか。
百聞は一見に如かず、先ずは下の画像を見て下さい。
左が陳時中衛生福利部部長、そして、右がわれらが「總柴」。
そう、柴犬です!
台湾で今、日本の柴犬がブームであることを背景に、更に「
「
衛生福利部から国民に呼びかける時、「總柴」はしばしば(柴犬だけに)この決め台詞を使います。
わたしみたいに、モフモフ好き、且つ偉いおじさまに上からものを言われるのが苦手なタイプの人間には、もう効果テキメン!
「はい、はい! 約束します♡」となります。←単純なやつ。
例えば、休日は外に出ず、家にいるよう呼び掛けるお知らせはこんな感じ。
總柴は写真だけでなく、絵バージョンもあります。
絵バージョンの總柴が、「正しい手の洗い方」を教えてくれています。
台湾のコロナ禍は今かなり厳しい状況ですが、總柴の可愛らしさに癒されているのはわたしだけではない筈です。
總柴には、きりっと眼鏡をかけたバージョンもあり、その時は少し厳しい口調になるのですが、『吾輩は猫である』の名無し猫がわざと偉そうに語るのと同じ効果で、やっぱり可愛いくて――
「はい、はい! 總柴の言う通りにします♡」←わたしって、ある意味市民の
というわけで、そろそろ今日のBGMの時間です。台湾を代表する熱いロック・バンド「滅火器」の「希望の明日」をお送りします。
URL:https://youtu.be/drZLKFugUa0
このタイトル、わたしが日本語訳したんじゃないんですよ。元々のタイトルが日本語なんです。この曲は、311東日本大震災から10年目の節目である今年の3月、「滅火器」が台湾のNGOである中華文化總會※2の依頼を受け、台日友好活動の一環として作った曲です。
日本人を励ますために作られた歌なのですが、今の台湾にもぴったりの曲だと思います。
※1 大使館がない代わりに、「日本台湾交流協会」(日本側)と「台北駐日經濟文化代表處」(台湾側)が、それぞれ対外業務を担当しています。
※2 「中華文化總會」は1967年に設立された、台湾文化事業に携わるNGO。非政府組織だが、歴代の会長は現職の総統が務めています。現会長は、もちろん蔡英文総統。