2月28日 他殺か?自殺か?台湾「鳳梨」(パイナップル)と228事件

文字数 2,813文字

 他殺か? 自殺か? 鍵を握るのは「鳳梨(フォン・リィー)」(パイナップル)!

 ――と、なんだかミステリー風に始まった『台灣懶惰日記 其の()』でございます。
 タイトルにある「貳」の字ですが、「二」を「貳」と書くのは、台湾では銀行などで正式に金額を記す場合などに使われます。これを「大寫(ダー・シィエ)」と言うのですが、外国人が台湾の銀行の窓口で金額を「大寫」で書くよう言われ、間違えて字を

書いてしまったというジョークがあります(私の失敗談じゃないですよ!)。

 さて、冒頭の「他殺か? 自殺か?」についてですが、台湾旅行に来た日本人が果物屋のパイナップルに、「他殺●●元、自殺●●元」という札がかけられているのを見て驚き、写真をtwitterに載せたところ、それを台湾のマスコミが逆輸入的に報道して一時期かなり話題になりました。だから、ご存知の方も少なくないかもしれません。

 パイナップルには、棘がありますよね。
 果物屋でパイナップルを丸ごと一個買った時、ついでに果物屋さんに皮を剥いてもらうことを、「他殺(ター・シャー)」と言うのです。逆に、自分で皮を剥くことを「自殺(ヅー・シャー)」と言います。

「鳳梨」(パイナップル)の皮を剥くことを「殺」と言うのは、台湾語(閩南語)由来だそうです。ただ、「果物の皮を剥く」は、通常「削皮(シャオ・ピィー)」や「去皮(チゥ・ピィー)」と書きます。「他殺」「自殺」の字が使われるのは、どうやらパイナップルだけみたいです。しかも、台北ではあまり見かけないです(台北では、最初から皮が剥かれた状態で売っていることが多い)。
 この物騒な字を使うのは、ちょっと田舎の果物屋さんとか、トラックを道端に止めて売っているパイナップル屋さんに多いみたいで、今回私も皆さんに写真をお見せしようとしたのですが、家の近所の果物屋には書いてありませんでした(残念)。

 なぜいきなり「鳳梨」を話題にしたかと言うと、最近台湾で大きなニュースになっているからです。
 今月の26日に、中国がいきなり台湾からの「鳳梨」の輸入を禁止すると発表しました。まあ、これは一種の経済制裁――というか政治的な嫌がらせですね。台湾の政治討論番組の分析に拠れば、台湾が中国製のコロナ・ワクチンの購入を拒否したことが原因の一つではないかということでした。

 こういう中国からの政治的な嫌がらせというのは、しょっちゅうあります。もしかして日本では知らない人が多いのではないかと思うのですが、台湾は国連にもWHOにも加入していません。いや、加入できないのです。理由は中国が「一つの中国」を主張し、実質的な独立国である台湾の国家主権を認めないからです。台湾が国際的にも一流の医療技術を持ちながら、以前SARSによってひどい被害を受けたのは、WHOから全く情報も支援も受けられなかったことが主な原因です。あの騒ぎの時、わたしは既に台湾にいましたが、国際機関の人道支援などという言葉が、いかに嘘っぱちで空虚なものか身に染みてよくわかりました。

 SARSの時、台湾は正に世界の孤児状態で、完全に自力によってSARSを撲滅したのです。当時台湾にいた多くの日本人が帰国を選択したのですが、あの時帰国しなかったことは、私の中でちょっぴり誇りになっていたりします。
 逆に、今回台湾がコロナをほぼ完璧に抑え込んでいるのは、台湾がWHOの情報ではなく、独自の情報に基づき、早期に的確な対策を打ち出すことができたためです。もちろん、その裏にはSARSの折の苦い経験が踏まえられています。

 話を戻しますが、中国がいきなり「鳳梨」の輸入を禁止したことは、台湾の農家にとって、もちろん大きな打撃になりました。でも、台湾は逞しいです。早速、政府が農家を守るための大キャンペーンを展開しています。下は、蔡英文総統のインスタグラムから。



「吃鳳梨,挺農民」とスローガンが書いてありますが、これは、「パイナップルを食べて、農家を応援しよう!」という意味です。

 先ず国内消費を高める作戦ですね。国外的には、27日の台湾のニュース※によると、日本の西友及び楽天との契約が成立したそうです。これまで日本へのパイナップル輸出量は一年で300トンほどだったそうなのですが、うまく行けば600トンに倍増するのではないかという期待が高まっています。
 やるじゃん、日本!

 それから、今日2月28日は、台湾では特別な記念日です。
 今から74年前――1947年のこの日、「228事件」と呼ばれる大事件が台湾で起きました。

 前にこのエッセイでも、1945年の日本敗戦を境として、蔣介石率いる国民党及び国民党と一緒に台湾に渡ってきた人を「外省人」、それ以前から台湾に住んでいた台湾人を「本省人」と呼ぶと紹介しましたが、歴史的に見て、「外省人」と「本省人」との対立を象徴する、最も悲惨な出来事が、この228事件だと言えます。
 私のエッセイでは、政治的話題はあえて避けているので簡単に紹介しますが、要するに国民党が本省人の民衆を大量に虐殺した事件で、被害者の死亡数は18000人~28000人と諸説あり、事件の全貌は未だに完全に明らかになっているとは言えません。
 228事件にご興味のある方は、侯孝賢(ホウ・シャオ・シィエン)監督の名作映画『悲情城市』を御覧になることをお薦めします。また、司馬遼太郎の『街道をゆく 40 台湾紀行』にも、この事件のことが書かれています。

 今日は、このエッセイで初めての試みとなりますが、台湾語で書かれた楽曲を紹介します。台湾を代表するロックバンド「滅火器」の「自信勇敢 咱的名」(自信と勇敢、われらが名前)です。URL:https://youtu.be/p-R9UqYCcYI
 これは、2020年の総統選挙の時、民進党候補の蔡英文に対する応援歌として創られました。台湾の大地から直接響いてくるような、熱い歌声が印象的です。

 本省人の蔡英文はこの選挙で、国民党候補で外省人の韓國瑜に圧倒的な大差をつけて勝利し、安定の二期目に入りました。よく言われるのは、もし中国寄りの国民党が勝利していたら、台湾はコロナの抑え込みどころか、とんでもない被害を受けていただろうということです。
 政治的な問題にあまり深入りするのもどうかと思いますが、政治に無関心でいてはいけないとつくづく思わされる一件ではあります。

 今回はちょっと硬い内容になってしまいましたが、次回は元のぐうたら路線に戻るつもりですので、引き続きご贔屓賜れば幸いです。

 あ、最後に、このエッセイの新しい表紙についてですが、わたしも及ばずながら「台灣鳳梨,加油(チィアー・ヨウ)!」(台湾パイナップル、頑張れ!)ということで、家にあったパイナップルの缶詰を使っております。

※ 「屏東鳳梨外銷日本打頭陣 銷量翻倍估600噸」URL:https://today.line.me/tw/v2/article/nzBBg1?utm_source=lineshare%3F



 



 

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