3月2日 饅頭と我的少女時代

文字数 2,554文字

饅頭(まんじゅう)」ではありません。「饅頭(マン・トウ)」です。
 中華世界の伝統的な食品の一つですが、厳密には中に「(シィエン)」の入っていない「饅頭」は、元々中国北方の主食なんだそうです。

 あ、ついでに書いておくと、「餡」の字を、「あん」と読むと、日本ではアンパンのイメージが強くて甘い小豆を想像しがちですが、中国語では、餃子(ギョウザ)でも肉包(ロウ・パオ)(肉まん)でも、中に包むものは全部「(シィエン)」です。

饅頭(マン・トウ)」というのは、材料が基本的に小麦粉とドライイーストだけという、いたってシンプルな食べ物です。
 その中でも、一番シンプルなのが、この白くて「餡」が一切ない「饅頭」です。



「饅頭」は蒸して作るので、油を使用しない低カロリー食品です。だからちょっとお腹が空いたけど太るのが心配というような時、これをもぐもぐ齧るというのは、台湾あるあるです(それともわたしだけ?)。
 わたしは台湾に来たばかりの時、所謂「水土不合(シュイ・トゥ・プゥ・フゥ)」(日本語の「水が合わない」と同じ。外国などに行って、環境・飲食の変化が原因で体調不良に陥ること)状態になり、胃腸が弱ってほとんど何も食べられないという一時期があったのですが、この「饅頭」は、例外的に大丈夫だったものの一つです。

「饅頭」は、他にもいろいろバリエーションがあります(店によっても違う)。

 代表的なのは(どこの店にもあるという意味)、黒砂糖入りでちょっと甘いバージョン。



 わたしが今日行った店では、他にもチーズ入りバージョンがありました。



 一番シンプルな白い「饅頭」も、以前のわたしみたいに胃腸を壊したりとか、ダイエット的(?)な理由があるとかの場合を除けば、普通は「何か塗る」か「何か挟む」かして食べます。葱入りの卵焼きを挟んだり、パンみたいにジャムを塗って食べてもOKです。

 わたしのお気に入りは真ん中に切れ込みを入れて、イチゴジャムを薄く塗り、更に「肉鬆(ロウ・ソン)」(豚肉のでんぶ)を挟む食べ方です。
「肉鬆」というのは、これです。



 これとジャム? えーーっと思われるかもしれませんが、これがけっこう合うんですったら! 

 しかし――
 ジャム塗ったり、チーズ入ってたり、卵焼き挟んだりしたら、カロリー跳ね上がるじゃん!
 全然ダイエット効果ないじゃん!

 やっぱりおとなしく()饅頭を齧っているべき……?

 さて、ここから後半なのですが(饅頭齧りながら書いてます。お行儀悪くてすみません。素饅頭か否かは秘密です)、「同じ国の人だが、世代が違う」と「国は違うが、世代が同じ」という二つのグループがあった場合、コミュニケーションを取り易いのはどちらのグループでしょう?
 わたしの感覚としては、圧倒的に後者です。
 同じ日本人であっても、世代が違うとびっくりするほど話が通じないっていう経験ないですか? わたしはありますよ。ジェネレーションギャップって、下手すると惑星が違うほどの隔たりを生むこともあるような気さえします。

 一方、世代が同じ場合は、相手が外国人で、たとえ言葉の壁があったとしても、感覚的に理解し合える部分があって、時に感動的ですらあります。
 わたしは台湾に来て最初の一年は、語学センター的なところで中国語を習っていたのですが、そこで一番仲がよかった友人は日本人ではなく、ある同世代の韓国人でした。お互い拙い中国語を媒介として話すので、台湾人が聞いたら逆に意味がわからなかったかもしれませんが、わたしとその韓国人の間では、ほぼ完璧にコミュニケーションが成立していました。今思い出しても懐かしい経験の一つです。

 そこで、今日ご紹介したいのは、2015年の台湾映画「我的少女時代」(私の少女時代)です。
 平凡な女子高生・林真心(リン・チェン・シン)の青春と恋を描いたこの映画は、1990年代に青春時代を過ごした人なら、日本人でもノスタルジーと共感の嵐になること間違いなしの傑作映画です。

 陳玉珊の第一回監督作品で、女性監督らしい繊細の演出、それから林真心を演じる宋芸樺(ソン・ユゥン・ホゥア)さんのユーモラス且つキュートな演技が本当にすばらしいです!
 主人公の少女の、そのきれいごとではないリアルな心理描写が爆笑を誘うと同時に、二度と戻らない青春の日々への哀惜の念に満ち溢れ、笑いながらいつか泣いている自分に気づかされます。

 この映画を見ると、90年代の台湾の若者にとって、当時の日本のサブカルチャーがけっこうイケてる感じだったんだなあというのがわかります。主人公の恋敵である少女の髪型とかが、90年代のある日本のアイドルにそっくりだったりします。
 ただ、ここで注意したいのは、当時の台湾の若者にとって、日本文化だけでなく、香港文化の影響が強かった点です。
 主人公林真心にとって、最大のアイドルは香港スター劉德華(アンディ・ラウ)なのです。映画には、劉德華本人も特別出演しています。
 劉德華は、1983年の香港ドラマ「神鵰俠侶」(中華世界最大の武侠小説作家金庸原作による武侠ドラマ。この作品は金庸作品中、最も恋愛要素が多い)が台湾でも大ヒットして以来、台湾で最も人気のある香港スターの一人であり続けています。

「神鵰俠侶」の大成功以後、劉德華は映画の世界に進出し(主演映画は現在まででなんと100本を超えるとか)、中華世界トップクラスの大スターとなるのですが、もしこの劉德華の映画の代表作を見たいなら、もうひとりの香港大スター梁朝偉(トニー・レオン)との夢の競演による「無間道」(日本語タイトルは「インファナル・アフェア」)がお薦めです。いやあ、カッコいい!

 ちなみに今の台湾の若者は、日本の映画やドラマは殆ど見ませんし、ポップスもあまり聞かないようです。ドラマで現在人気があるのは、「韓劇」と呼ばれる韓国ドラマや、「陸劇」と呼ばれる中国ドラマです。このエッセイの前の回でも紹介したように、台湾と中国の間には政治的、経済的な衝突や摩擦が絶えないのですが、サブカルチャーの受容はまた別で、台湾と中国の関係も一口にこうだと決めつけられない複雑微妙なものがあります。

 ――というわけで。
 今日のBGMは映画「我的少女時代」の主題歌「小幸運」(ちょっとした幸運)です。映画の名場面が、けっこう惜しみなく使われていますので、ぜひご覧下さい。
 URL:https://youtu.be/_sQSXwdtxlY

 

 

 

 



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