第十一項 クリスマスになりまして
文字数 1,618文字
「ふぁ~ぁっ……昨日は大変だったなぁ~」
クリスマスの朝、私はお昼前に目を覚ましました。いくら休日とはいえ、お寝坊さんし過ぎたかもです。
繰り返しますが、昨日は本当に大変でした。クリスマスイヴだっていうのに、ちっともロマンチックなことはありませんでした。全力で茶番劇に取り組んで、蓮の抱える女性問題(?)を解決しました。サラさんはお怒りになってのバイバイでしたので、もう大丈夫でしょう。義妹のコトネさんは、納得できないという感じでしたが、しばらくは大人しくしてくれそうです。
蓮とハスノさんたちと一緒に夕食(外食)をいただいて、そのまま家まで送っていただきました。そのとき私のお母さんが出てきたので、そのままハスノ夫妻がご挨拶しちゃったものだからもう……
両家の親公認の関係になっちゃいました。蓮はとても嬉しそうな表情で、終始ニコニコしていたのですが、心の中では困惑しているようでした。
終日彼と行動してきて、私の気持ちも変わってきました。彼は彼で、私のことを大事に思いつつ、いっぱい悩んでいるのが心の声で感じられたのですから。だから私も、彼への気持ちを抑えて、今は待ってみようと思ったんです。彼にはやらなければならないことが、いっぱいあるんだって。
さて、全てが終わって”めでたし、めでたし”かと思ったのですが、ここから延長戦のスタートです。サッカーでいうところの、アディショナルタイムのスタートです。偶然手にとってしまった彼のヘッドフォン、そこから聞こえる機械音声が、私を因果律へと導くのです。
「貴女ニオ願イガアリマス。今夜、夢デオ会イシマショウ」
そして本当に、夢に出て来たのです。
「貴女ニオ願イガアリマス」
「あなたは?」
「私ハ”セト”。兄サンヲサポートスル、支援AIデス」
「セトさん?」
「ハイ。ソレヨリ時間ガアリマセン。貴女ニオ願イガアリマス」
「お願いですか?わ、私にできることなら……」
「兄サンヲ、愛シテクレマスカ?」
夢とはいえ、蓮の姿をしているとはいえ、とんでもない状況です。
「あ、愛するって!?何を言って……」
動揺する私に、彼は声まで蓮になって語り始めました。たどたどしい機械音声ではなく、人間らしい流暢な日本語です。
「兄さんは、永い間戦ってきました」
「え、ええ。23歳なのに、30年以上前の戦場にいたとか……よくわからないんですけど」
「それだけではありません。今の肉体だけでなく、今の人格だけでもなく、兄さんは戦い続けてきたのです」
「今の肉体……今の……人格?」
そう、私が疑問に思っていること。彼の心の声から感じる疑問。30年前に生きていたこと、そしてそれ以前にいたという、”前の蓮”という存在。
「まもなく、最後の三千年が終わろうとしています。しかし決戦を前に、兄さんの魂、その心は既に、限界なのです」
「あの……仰っていることがよく……」
「今はわからずともよいのです。ただ聞いてください。そして兄さんを受け入れてください」
「……」
「神話の物語。アベルとカインをご存知ですか?」
「えっと、旧約聖書の創世記ですよね?嫉妬した兄のカインが、弟のアベルを殺してしまったっていう、あれですか?」
「そのとおりです。ただ、私の知る事実とは異なりますが」
「知る……事実?」
「それは神聖なものでも、黙示録に詠われるようなものでもありません。人類が抱く幻想とは違う、ただの親子ゲンカなのです」
「親子……喧嘩?」
「そう……たった一つの嘘が……最初の嘘が、世界の悪意の根源なのです」
このあと私は、世間の常識とは異なるお話を聞くことに、いえ、知ることになりました。そもそも、神話が物語である以上、正確なものではありません。そんなことがあったのかどうかも、定かではないのですから。だからちょっと、解釈の違うバリエーションがあったとしても、大目に見てもらえますよね?
クリスマスの朝、私はお昼前に目を覚ましました。いくら休日とはいえ、お寝坊さんし過ぎたかもです。
繰り返しますが、昨日は本当に大変でした。クリスマスイヴだっていうのに、ちっともロマンチックなことはありませんでした。全力で茶番劇に取り組んで、蓮の抱える女性問題(?)を解決しました。サラさんはお怒りになってのバイバイでしたので、もう大丈夫でしょう。義妹のコトネさんは、納得できないという感じでしたが、しばらくは大人しくしてくれそうです。
蓮とハスノさんたちと一緒に夕食(外食)をいただいて、そのまま家まで送っていただきました。そのとき私のお母さんが出てきたので、そのままハスノ夫妻がご挨拶しちゃったものだからもう……
両家の親公認の関係になっちゃいました。蓮はとても嬉しそうな表情で、終始ニコニコしていたのですが、心の中では困惑しているようでした。
終日彼と行動してきて、私の気持ちも変わってきました。彼は彼で、私のことを大事に思いつつ、いっぱい悩んでいるのが心の声で感じられたのですから。だから私も、彼への気持ちを抑えて、今は待ってみようと思ったんです。彼にはやらなければならないことが、いっぱいあるんだって。
さて、全てが終わって”めでたし、めでたし”かと思ったのですが、ここから延長戦のスタートです。サッカーでいうところの、アディショナルタイムのスタートです。偶然手にとってしまった彼のヘッドフォン、そこから聞こえる機械音声が、私を因果律へと導くのです。
「貴女ニオ願イガアリマス。今夜、夢デオ会イシマショウ」
そして本当に、夢に出て来たのです。
「貴女ニオ願イガアリマス」
「あなたは?」
「私ハ”セト”。兄サンヲサポートスル、支援AIデス」
「セトさん?」
「ハイ。ソレヨリ時間ガアリマセン。貴女ニオ願イガアリマス」
「お願いですか?わ、私にできることなら……」
「兄サンヲ、愛シテクレマスカ?」
夢とはいえ、蓮の姿をしているとはいえ、とんでもない状況です。
「あ、愛するって!?何を言って……」
動揺する私に、彼は声まで蓮になって語り始めました。たどたどしい機械音声ではなく、人間らしい流暢な日本語です。
「兄さんは、永い間戦ってきました」
「え、ええ。23歳なのに、30年以上前の戦場にいたとか……よくわからないんですけど」
「それだけではありません。今の肉体だけでなく、今の人格だけでもなく、兄さんは戦い続けてきたのです」
「今の肉体……今の……人格?」
そう、私が疑問に思っていること。彼の心の声から感じる疑問。30年前に生きていたこと、そしてそれ以前にいたという、”前の蓮”という存在。
「まもなく、最後の三千年が終わろうとしています。しかし決戦を前に、兄さんの魂、その心は既に、限界なのです」
「あの……仰っていることがよく……」
「今はわからずともよいのです。ただ聞いてください。そして兄さんを受け入れてください」
「……」
「神話の物語。アベルとカインをご存知ですか?」
「えっと、旧約聖書の創世記ですよね?嫉妬した兄のカインが、弟のアベルを殺してしまったっていう、あれですか?」
「そのとおりです。ただ、私の知る事実とは異なりますが」
「知る……事実?」
「それは神聖なものでも、黙示録に詠われるようなものでもありません。人類が抱く幻想とは違う、ただの親子ゲンカなのです」
「親子……喧嘩?」
「そう……たった一つの嘘が……最初の嘘が、世界の悪意の根源なのです」
このあと私は、世間の常識とは異なるお話を聞くことに、いえ、知ることになりました。そもそも、神話が物語である以上、正確なものではありません。そんなことがあったのかどうかも、定かではないのですから。だからちょっと、解釈の違うバリエーションがあったとしても、大目に見てもらえますよね?