第六項 苦艾(ニガヨモギ)
文字数 1,811文字
『鉄は打たれるほどに強くなる……ヒトの心はどうだろう?キミの心、想いも、打たれるほどに強くなるのだろうか?耐えてごらん』
ドラゴンはとんでもない奴だった。額のプラヴァシーを輝かせ、口から炎を放っていた。もちろん、炎を吐いている訳じゃない。そんなこと、できる訳ないからね。
怪獣が炎を吐くにはどうしたらいいだろう?ウランやプルトニウムなどの放射性物質を食べて燃料にすればいいのか?答えはノーだ。原子力発電所が体内にある訳じゃなし、そんなもん食っても、自分が放射能で汚染されて死ぬだけだ。
じゃあ石油や石炭は?どうやって着火させるかはわからないけど、火が付いた途端に、躯の内側も燃えちゃうよ。気化した燃料に火を着けて吐き出すんだろうけど、お腹の中のガスにも引火するからね。
だからこの化け物は、額でエネルギーを発生させ、口元を銃口、いや、噴射口に見立てているだけだ。
こんな解説をしている間も、俺は戦っていた。前足や尻尾が振り回され、とんでもない火力の炎が降り注ぐ。ゲームの中にしかいなそうなモンスター、というか恐竜相手に、俺は戦っていた。だが、奴の放つ炎と、奴自体が高温になっていき、こちらから近づくことはできなくなっていた。打撃戦が封じられ、炎も相性が悪い。もう残された手段は、“神との訣別(さいしょのうそ)”で吹き飛ばすことだ。“神との訣別”それはカインが放つ最強の奥義だ。座標指定した位置に敵が飛び込んできたとき、いっきに吹き飛ばす。融通は利かないが、破壊力は最高だ。だが、俺はそれを躊躇っていた。だってこの姿で発動したら、どれほどの威力なのかわからない。もし、“神との訣別”がヒットした場所が、炎の烙印と重なったとき、炎の烙印を砕いてしまうのではないか?そして、暴走したプラヴァシーを砕いてしまったとき、どれほどのエネルギーが解放されるのか、想像もつかないんだ。
どうしたもんかと考えあぐねていたときに、リジルが起こした水柱が降ってきた。湖1杯分の水って、どれほどの量だと思う?藻やら苔やら、さらにはお魚さんも巻き込んで、バケツをひっくり返したかのような勢いで、水が降ってきた。打ち付けられて結構痛かったけど、周りの炎が消え、ドラゴンの方も頭と躯を冷やせたようだ。もう一度だけ、物理攻撃でやってやろうか……
白く曇った世界で、静かに、それは静かに執り行われました。銀色の悪魔が激しい水蒸気に紛れて、ドラゴンに跳びかかったのです。ドラゴンの頭に飛び乗って、刃物に変えた左腕を突き立てました。
ドラゴンは唸り声を上げて首を振り、悪魔を振りほどこうとします。でも、悪魔はしがみついたまま、右腕でガンガンとドラゴンの額を殴りつけているのです。ドラゴンが弱って動きを鈍らせたとき、悪魔は刃と化した左手の、プラヴァシーを開放しました。
ドラゴンがどんなに激しく首を振っても、転げまわって暴れても、悪魔は決して離れません。それどころか、左手を中心に閃光を放ちます。突然噴出した黒い輝きが、黒い十字架が、天高く放たれます。
「ラハット・ハヘレヴ・ハミトゥハペヘット!」
黒いプラズマはあたかも光であるがごとく、周囲を漆黒に照らします。
黒光に貫かれ、呑み込まれた炎獣は成す術も無くその身を裂かれました。燃えているのか、熱で斬り裂かれているのか、それは誰にもわかりません。ただ、強大に思われた炎の化身、ドラゴンが激しく燃えて灰となり、粉々に引き裂かれていったのでした。
『ニガヨモギの星が川に落ち、川の3分の1が毒になる……死の蔓延が始まる』
第三のラッパが、吹き鳴らされました……
黒い炎が渦巻く中で、炎獣が崩れて堕ちました。地に伏せたその残骸に、うつ伏せになったヒトの、上半身が転がっていました。炎の烙印を失った、天使ウリエルさんです。ウリエルさんは、そのまま放置しても灰になったでしょう。どう見ても、助からないのは明白です。でも、銀色の悪魔はウリエルさんに止めを刺そうとするのです。この手で殺し、復讐を遂げようとするのです。
悪魔が左腕を、刃を振り下ろそうとしたとき、美しい光が降り注ぎました。まるで滝に打たれるがごとく、ウリエルさんと悪魔は光に飲まれました。聖水のように注がれるエリクシールが、黒い炎を鎮火して、悪魔も蓮の姿に戻しました。
「そこまでにしたまえ。シーブック・エル・ダート」
ドラゴンはとんでもない奴だった。額のプラヴァシーを輝かせ、口から炎を放っていた。もちろん、炎を吐いている訳じゃない。そんなこと、できる訳ないからね。
怪獣が炎を吐くにはどうしたらいいだろう?ウランやプルトニウムなどの放射性物質を食べて燃料にすればいいのか?答えはノーだ。原子力発電所が体内にある訳じゃなし、そんなもん食っても、自分が放射能で汚染されて死ぬだけだ。
じゃあ石油や石炭は?どうやって着火させるかはわからないけど、火が付いた途端に、躯の内側も燃えちゃうよ。気化した燃料に火を着けて吐き出すんだろうけど、お腹の中のガスにも引火するからね。
だからこの化け物は、額でエネルギーを発生させ、口元を銃口、いや、噴射口に見立てているだけだ。
こんな解説をしている間も、俺は戦っていた。前足や尻尾が振り回され、とんでもない火力の炎が降り注ぐ。ゲームの中にしかいなそうなモンスター、というか恐竜相手に、俺は戦っていた。だが、奴の放つ炎と、奴自体が高温になっていき、こちらから近づくことはできなくなっていた。打撃戦が封じられ、炎も相性が悪い。もう残された手段は、“神との訣別(さいしょのうそ)”で吹き飛ばすことだ。“神との訣別”それはカインが放つ最強の奥義だ。座標指定した位置に敵が飛び込んできたとき、いっきに吹き飛ばす。融通は利かないが、破壊力は最高だ。だが、俺はそれを躊躇っていた。だってこの姿で発動したら、どれほどの威力なのかわからない。もし、“神との訣別”がヒットした場所が、炎の烙印と重なったとき、炎の烙印を砕いてしまうのではないか?そして、暴走したプラヴァシーを砕いてしまったとき、どれほどのエネルギーが解放されるのか、想像もつかないんだ。
どうしたもんかと考えあぐねていたときに、リジルが起こした水柱が降ってきた。湖1杯分の水って、どれほどの量だと思う?藻やら苔やら、さらにはお魚さんも巻き込んで、バケツをひっくり返したかのような勢いで、水が降ってきた。打ち付けられて結構痛かったけど、周りの炎が消え、ドラゴンの方も頭と躯を冷やせたようだ。もう一度だけ、物理攻撃でやってやろうか……
白く曇った世界で、静かに、それは静かに執り行われました。銀色の悪魔が激しい水蒸気に紛れて、ドラゴンに跳びかかったのです。ドラゴンの頭に飛び乗って、刃物に変えた左腕を突き立てました。
ドラゴンは唸り声を上げて首を振り、悪魔を振りほどこうとします。でも、悪魔はしがみついたまま、右腕でガンガンとドラゴンの額を殴りつけているのです。ドラゴンが弱って動きを鈍らせたとき、悪魔は刃と化した左手の、プラヴァシーを開放しました。
ドラゴンがどんなに激しく首を振っても、転げまわって暴れても、悪魔は決して離れません。それどころか、左手を中心に閃光を放ちます。突然噴出した黒い輝きが、黒い十字架が、天高く放たれます。
「ラハット・ハヘレヴ・ハミトゥハペヘット!」
黒いプラズマはあたかも光であるがごとく、周囲を漆黒に照らします。
黒光に貫かれ、呑み込まれた炎獣は成す術も無くその身を裂かれました。燃えているのか、熱で斬り裂かれているのか、それは誰にもわかりません。ただ、強大に思われた炎の化身、ドラゴンが激しく燃えて灰となり、粉々に引き裂かれていったのでした。
『ニガヨモギの星が川に落ち、川の3分の1が毒になる……死の蔓延が始まる』
第三のラッパが、吹き鳴らされました……
黒い炎が渦巻く中で、炎獣が崩れて堕ちました。地に伏せたその残骸に、うつ伏せになったヒトの、上半身が転がっていました。炎の烙印を失った、天使ウリエルさんです。ウリエルさんは、そのまま放置しても灰になったでしょう。どう見ても、助からないのは明白です。でも、銀色の悪魔はウリエルさんに止めを刺そうとするのです。この手で殺し、復讐を遂げようとするのです。
悪魔が左腕を、刃を振り下ろそうとしたとき、美しい光が降り注ぎました。まるで滝に打たれるがごとく、ウリエルさんと悪魔は光に飲まれました。聖水のように注がれるエリクシールが、黒い炎を鎮火して、悪魔も蓮の姿に戻しました。
「そこまでにしたまえ。シーブック・エル・ダート」