第三項 再会と再開

文字数 1,986文字

 「スメラギさんのお話だと、連絡員は女性でしたよね?すぐにわかるって言ってたけど……」
メグがキョロキョロと到着ロビーを見回すと
「すっごい美人!もしかして、あの人だったりして」
一際目を惹く金髪美女が、エスカレーターで上がってきました。
 「美人だって。蓮も気になる?」
何気なく蓮をからかおうとして、冗談を口にした私。でも、視線を彼に移したとき、そこには真っ青になった蓮がいました。
「れ、蓮?どうしたの?」
そんな私の声が聞こえないかのような蓮は、冷や汗を流しています。そして、”レン”という音に反応した金髪美女が、こっちに駆け寄ってきて
「レン!レ~ン~~!」
いきなり彼に抱きつきました。

 その女性は周囲の目も気にせずに、蓮に跳びつきました。そしてそのまま、蓮の唇を奪ったのです!
「ちょ!蓮、何やってるの!?」
 驚いた私は、急いで2人を引き離そうとします。でも、金髪美女は力いっぱい蓮に抱きついていて、非力な私では引き離せません。他のみんなの援護が欲しかったのですが、みんな呆然として固まっています。
 「くっ!離れてください!」
ハッとして正気に戻った蓮が、無理やり彼女を引き離します。
「何なんですか!?一体!」
こんなに取り乱し、大声を出す彼を初めて見ました。
「あら?私のこと、忘れちゃったの?」
その女性は、とっても可愛らしく、それでいてどこか棘のある笑顔を蓮に向けました。
 「あの……蓮、こちらの方は?」
私は努めて冷静を装い、彼女との関係を問いました。後日アマノから、額に青筋が浮かんでいたって知らされるのですが……
 私の質問に、蓮は黙ったままでした。そんな彼に再度質問しようとしたとき、彼女の方から自己紹介を始めました。
 「自己紹介がまだでしたわね。私はセシル・ローラン。北海道駐在のNACI連絡員よ」
NACI(Naturalized Association for Center of Information)、強制的に帰化することになった、在日外国人による諜報機関です。スメラギ総合研究所に、各地の情報を提供する組織なのですが……それを聞いた蓮の表情は、愕然としたものでした。
「あなたが?」
「ええ。また会えて嬉しいわ。蓮」
まるでキツネに抓まれたかのようでしたが、蓮は心を落ち着けて、驚きと絶望を飲み下しました。そんな彼の思考は
 『そうか……NACIは、もはや味方じゃないってことか。だが、よりにもよって、この女性(ヒト)が出てくるなんて……』
というものでした。
 警戒する蓮と、美しい笑顔の影に黒い悪意を覗かせるセシルさん。始めは蓮の元カノが出てきたのかと、私は嫉妬を覚えたのですが、今は別の感情が湧き上がってきます。なんだろう?この捉えどころのない不安……蓮もいつもと様子が違う。明らかに動揺していて、余裕がないのが分かります。余裕がないから
「セシルさん」
考えがまとまらないまま、セシルさんに声をかけてしまうのです。
「セシルでいいわ。昔みたいに」
そして簡単にあしらわれ、彼女のペースから逃げられません。特別な相手に向けるような、甘えた笑顔の彼女に、腕を組まれてしまうのです。
 「ちょっと、離れてください!」
本気で嫌がる蓮ですが、セシルさんは取り合わず
「何言ってるのよ。レ・ン」
まるで恋人のように、付き合い始めたばかりのカップルであるかのように、猫撫で声を浴びせるのです。
 なんとかしなきゃ!そう思った私は
「立ち話もなんですし、歩きながら話しませんか?」
額の青筋を増やしつつ、無理に笑顔を作って割り込みました。
「そうね。じゃ、行きましょ」
 でも、セシルさんはビクともしません。再び蓮の腕を取り、無理やり引っ張って行っちゃうのです。
「ちょ、ちょっと!」
私が慌てて追いかけると、みんなも必死についてきます。
 「あ~あ、修羅場だな……」
セシルさんを蓮の元カノと誤解したヒデさんと
「うん……修羅場だね」
ワクワクしているメグが、ちょっと楽しそうなのが残念です。
 そんな状態だから、私たちは気づきませんでした。私たちと同じ便で、ある外国人カップルが到着ロビーに来ていたことを。ヒデさんの再検査も、セシルさんの登場も、蓮の目をそのカップルに向けないための工作だったのです。
 蓮がセシルさんに振り回され、エスカレーターを駆け下りていった後、私たちはすれ違ったのです。そのとき聞こえた言葉に、私は違和感を覚えます。だって
「こっちよ。お兄ちゃん」
明らかに年上の女性が、15歳くらいの男の子をそう呼んでいたんです。それに
「わかったよ。フェルト」
優しい笑顔を女性に向ける少年……あれ?あの男の子、どこかで見たような気が……それだけじゃない。あのセシルさんも、どこかで見たことがあるような……
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登場人物紹介

桜苗沙希(さなえさき)(16)

ちょっと天然な、お菓子系の美少女。

パステルカラーがよく似合う。

感受性が強く、不思議な青年、蓮と惹かれあう少女。

後に、”特異点”と呼ばれる。

蓮野久季(はすのひさき)(21?) 通称:蓮(レン)

その経歴や言動から、とにかく謎の多い青年。

「黒い剣士、銀色の悪魔、ワケあり伊達眼鏡、生きる女難の相」など、いろいろ呼ばれている。

物語の核である、「グラマトン、プラヴァシー、継承者、閉じた輪廻」に密接に関わる、左利きの男。

多重人格者であるが、それらは前世以前のもの。

セト

蓮が利用するアルドナイ(AI)

蓮を「兄サン」と呼び、主に情報収集と相談役として活躍する。

本編で詳しくは語られないが、遂に正体が見えてくる。

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