第11話 瑛斗⑥

文字数 684文字

「瑛斗ー、紗也ちゃんのお返し買ってきたからねー、渡してきてよー?」

母さんが女子の好きそーなラッピングの箱をテーブルに置いた。

「中、何?」

「クッキーよ、動物のかわいいやつ」

「へー…」

こーゆー時、オレはなにを返していいかわからない。
女子が好きそーだということはなんとなくわかっても、自分で選んで買うというところまではいかない。
毎年母さんの買ってきたものを渡すだけ。

今年も、放課後紗也の家に渡しに行った。


紗也の、お母さんが出ますように。


紗也が、いませんように。


心の奥底で、そう願う自分がいる。


インターホンを押す。

『はーい』

紗也のお母さんの声だ。

「瑛斗!」
心が一気に軽くなり、元気に答えて小さい頃みたいにドアを勝手に開けた。


目の前に…紗也。


「あ、紗也、いたんだ?」

「…いちゃ悪い?」

「いや、悪くないけど…あ、これ」

クッキーを差し出した。

「………ありがと」

紗也はクッキーの入った紙袋を見つめた。

「じゃあ」

「瑛斗!」

「…な、なに?」

「…ケーキ、おいしかった?」

「あ、うん、母さんもおいしいって言ってたよ」

「おばさんにもあげたの…?」

「え、うん、え…ダメだった?」

「…瑛斗のだって言ったじゃん」

「うん、あのさ、それ、なに?なんで?佑樹にもあげれば良かったのに」

「………そだね」

紗也がうつむいて答えた。

「紗也?」

「佑樹にも、あげれば良かったっ!!」

大声で言うと、紗也は2階の自分の部屋へ駆け上がっていった。

「おじゃま、しました…」

つぶやいてオレは、紗也んちを出た。

見上げると、紗也の部屋のカーテンは閉まってた。


ダメなんだよ。


オレと佑樹を同じように見てくれないと。


3人で、いたいんだ。







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