第45話 佑樹3

文字数 1,894文字

坂の途中の公園で、紗也を待つ。

もうすぐクリスマスだ。

紗也に瑛斗を好きなことを忘れろと言いながら、そんなことできるわけがないと自分に置き換えて痛いくらい感じていた。

だけどもう、自分の気持ちを隠していてもオレはずっとここで止まっているだけだ。

紗也に、伝えたい。

下ってきた紗也を呼び止めると、紗也はなんだか小学生の頃に戻ったみたいに見えた。

「…なんか、紗也雰囲気変わった。髪型、変えてない?よね」

「…さっすが佑樹」

「え?髪型?」

「変えてない。………フラれただけ、瑛斗に」

「え?」

「言っちゃったよ、もー。…いい加減、卒業しなきゃでしょ。あ、片思いの方ね。幼なじみは続行だけど」

「そ……そうなんだ」

紗也に先を越された。
けれど、それとこれとは関係ない。

「あっ!そだ、佑樹、ウソついたでしょー!瑛斗、あのコと付き合ってるって、女バスの」

「えっ!?そうなの?」

いつの間に。
瑛斗にも、先を越された。

「そーなんだってさ。…でもね、もーいんだ、さっぱりしたの、私。これでやっと前に進めるって」

「…そっか」

「…そなんだ」

すっかり定番になったブランコでまたオレたちはしばらく無言だった。

そして、オレは自分を落ち着かせながら口を開いた。


「……じゃあさ、オレといっしょに進むって、どう?」

「…え?」

「クリスマス、予定ある?」

「…ないけど」

「オレ、さ…紗也といたいなー…って……ダメ?」

「佑樹んちでパーティーでもするの?」

「…じゃなくて…二人で、いたくて」

「え?失恋したからって気つかってくれてんの?いーよいーよ、そんなのー」

紗也が笑って手を振る。
紗也って、けっこう鈍感なんだな。

「じゃなくて」

「何?」

「…オレ、紗也のこと好きなんだ」

「え?私も佑樹のことはずっと好きだよ?」

「…それ、幼なじみとして、でしょ」

そこまで言ってやっと紗也はハッとした顔をした。

「……え、う?ウソ……いつから?なんで?え?」

心の声、全部出てる。

「…ずっとだよ。」

「…そ……そう、だったんだ…全然、気づかなかった」

「…紗也は瑛斗のこと見てたからね」

「…佑樹のことも、見てた…つもり、だったけど……そか…」

「紗也は、オレのこと幼なじみにしか…思えない?」

紗也はそれには答えず、空を見上げたりオレの方を見たり、ソワソワと落ち着かなかった。

「急で、びっくりしてる。さっきも言ったけど、佑樹のことは、ずっと好き。…幼なじみとして。何でも言えるし、離れてる時があってもすぐにいつでも今まで通りになれるし。落ち着くし」

そこまで一気に言って、紗也は深呼吸した。

「私、さ。佑樹のことは、大切。瑛斗には言えないことも、佑樹なら言えてさ…それって、たぶん……親友、ってことだと思う。」

「親友…」

「私さ、ずっと、瑛斗が佑樹と私のことひっくるめて幼なじみとして見てるのが、すごく嫌だった。…けど、私も同じなのかもしれない。今ならその気持ちが何となくわかるんだ。私にとっては幼なじみって、すごく特別なんだってわかったから。だってさ!…だってさ、気づいてた?幼なじみって、これからどんなに長生きしたって、この先絶っ対手に入んない存在なんだよ?…すごく都合よく聞こえるかもだけど…私、佑樹のことも……失いたくないんだ。」

そこまで言うと、紗也は急にボロボロ泣き出した。

「…なんで紗也が泣いてんの?泣きたいのはオレだよ…」

「だって、佑樹まで失うかと思ったら…私…それにさ、私だってフラれたんだよ、泣きたいよ、泣かせてよ」

「なんだよそれ、むちゃくちゃじゃん」

言いながら、オレも涙が溢れてきて二人でボロボロ泣いた。

紗也にとって、オレは恋愛対象ではなくて、それは悲しかったけど、それだけじゃない。

紗也にとってオレは、ちゃんと失いたくない大切なものの中に位置していた。
それが嬉しい。

「…バカみたい、二人で泣いてるなんてね」

言いながら紗也は少し笑った。

「ほんとわけわかんないよ、フラれた相手といっしょに泣いてんだから」

「…でもさ、私たちだからいっしょに泣けるんだよね」

オレたちは涙を流すお互いを見て、無言で、自然とハグをした。

このまま紗也を離したくないと思った。

でももうそれは幼なじみとしてのハグだとわかっていた。

この涙とハグでオレたちは、ちゃんと幼なじみに戻れるということも。

小さな頃、何も思わずに手をつないでたのと同じことだ。

ケンカした後にごめんねと同時に言って泣いてたのと同じことだ。

大丈夫。

オレたちは幼なじみから始まって、ちゃんと幼なじみで終わる。


さよならだ、オレの紗也への恋心。



これからもずっと、幼なじみを続けていこう。

ずっと、
ずっと。

ずっと、お互いに大切な存在でいたいから。
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